ドル円は年度末95円から来年度90円に進む 「緩和=通貨安」の鮮度失い、来年も円高警戒

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こうした中、黒田総裁は、9月5日の「きさらぎ会」における講演にて、各主体の調達コストを引き下げたと説明し、マイナス金利政策の効果を強調した。一方、「短期調達・長期運用」を基本構造としている銀行にとって、イールドカーブのフラット化(短期金利と長期金利の差が小さくなること)が収益の悪化と金融仲介機能の低下につながる可能性に留意しなくてはならないとして、その副作用にも言及した。

従来の「銀行のために金融政策をやっているのではない」といった強い口調ではなくなった点が印象的だ。加えて、長期金利の低下による年金や生保の運用難が、貯蓄性の高い保険商品の販売停止や、企業による年金債務の拡大をもたらすなど、マインド悪化が経済活動に悪影響を与える可能性にも言及している。

これらを踏まえれば、日銀が今後、マイナス金利をさらに深掘り(マイナスの金利幅を拡大)する場合に、長期国債の買い入れの柔軟化(減額)によって、イールドカーブのスティープ化(短期金利と長期金利の差が大きくなること)を図る可能性が高い。もちろん、緩和姿勢の後退と映ることを避けるため、長期国債の買い入れを減額する一方、短期から中期の国債買い入れを増やし、全体としての国債買い入れ額は概ね維持するだろう。

しかし、イールドカーブの形状をコントロールすることは容易ではないと考えられる。なぜなら、長期金利の決定要因は、需給のほか、海外債券市場の動向、期待潜在成長率、期待インフレ率、そして財政のリスクプレミアムが複雑に絡み合うためだ。加えて、今まで以上のスピードで償還を迎える国債が増えるため、国債買い入れ額を維持することも、難しさを増すだろう。

サプライズに頼ったことが黒田日銀の誤算

本来であれば、米FRBの金融政策の正常化(利上げ)VS日銀の異次元緩和の継続や拡大(マイナス金利政策の付加)によって、円安が進んでいてもおかしくはなかったはずだ。しかし、そうならずに円高が進んだ最大の理由は、黒田総裁がサプライズに頼り過ぎたためだろう。もちろん、これは予想物価上昇率の押し上げを狙ってのことであろう。

しかし、非伝統的な金融緩和は、企業や家計、市場の日銀の政策に対する共鳴を得て初めて、当局の意図したような期待形成に働きかけることができると考えられる。その点、説明もほとんど行なわれないまま、マイナス金利政策が導入されたとあっては、日銀の政策によって、「これで景気がよくなる」、「これで物価が高まる」という意識が各経済主体や市場に浸透するとは考えにくい。マイナス金利政策のメリットより、副作用に対する不安感がかえって高まったと考えられる。

特に、長らくインフレ率2%程度が当たり前だった米国と、物価が上がらないことに慣れてしまった日本とでは、金融緩和の効き方も異なると考えられる。むしろ事前の十分な市場への説明や対話が求められよう。

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