インフレ2%には「政労使ベア合意」が必須だ 今の日銀の政策でインフレ期待はつくれない

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日本銀行は2013年から2%の物価目標を掲げているが苦戦している(撮影:今井康一)
マイルドな2%の物価上昇率(インフレ)の達成は、安定的なマクロ経済環境を確保するうえで不可欠である。ところが、現在の日本銀行の金融緩和は2%のインフレ目標の達成にはつながっていない。
米国では2%のマイルドなインフレ期待(物価が上がるという人々の予想)が定着している。日本でもそれを実現するには、2%のインフレと3%超のベースアップが人々の行動規範となるよう、経営者団体や労働組合の関係者にしっかり認識してもらう必要がある。
筆者は、具体的な試みの第一歩として、政府の経済対策の実施に合わせ、政府・中央銀行が仲介または参加して、中立的に2%のインフレと少なくとも2%のベースアップに向けた経営者団体と労働組合の合意の形成を図ることを提案したい。

「デフレ脱却」とは景気回復や円安を指すのではない

「デフレ脱却」とは2%程度のマイルドなインフレ率を実現することであり、それはマクロ経済の安定には必要不可欠なものだ。ところが、筆者の印象では、日本の経済学者やエコノミストの多くは、物価上昇率の水準にほぼ無頓着である。一方、政治家や一般人の多くは、デフレ退治を、物価上昇率の問題ではなく、単に不況を終わらせることと考えているようだ。

また、量的緩和の目的は円安を実現することと誤解している人も多いようだ。しかし、為替は各国経済の相対的な動向により変動するものであって、常に円安を演出しようとすることは為替操作に該当し、国際的に理解が得られない。

さらに、日本のエコノミストには、ゼロインフレやマイルドなデフレは問題ない、むしろゼロインフレが望ましい、と考えている人が少なからずいる。彼らは「デフレは結果であって、原因ではない」とたびたび発言してきた。2013年以降の日本銀行の量的緩和策をリードしている黒田総裁、岩田副総裁、浜田内閣官房参与、本田前内閣官房参与らを除くと、信念を持ってマイルドなインフレの必要性を訴える人は非常に限られている。

だが、欧米の主要なエコノミストは、筆者と同様に、2%のマイルドなインフレは必要不可欠であると考えている。バーナンキ前FRB(米国連邦準備制度理事会)議長、ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁やチーフエコノミストらは、「経済をひどく傷つけるデフレに陥らないよう、あらゆる手段を尽くす」と繰り返し発言している。フィナンシャルタイムズ紙やエコノミスト誌も、敗北主義に陥ってはならず、金融緩和や景気浮揚策を継続するべきであると警告し、金融市場に歪みをもたらすという観点から金融緩和を批判する者に対して、代替案を示すよう促している。

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