つまり労働者には大前提として有給休暇を取得する権利があり、請求はいつからいつまで休むという時季を指定する行為にすぎません。これを「時季指定権」と呼びます。使用者がその請求を拒否することは許されません。
これに対して、請求された時季が事業の正常な運営を妨げる場合、使用者が他の時季に変更できる権利を「時季変更権」と呼びます。あくまでも原則は「時季指定権」であり、「時季変更権」は例外的に認められるものです。
最高裁平成4年6月23日第三小法廷判決(時事通信社事件)では、使用者の時季変更権の適法性が争われました。判決では休暇が長期のものであればあるほど、事業の正常な運営を妨げる蓋然性が高くなり、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との「事前の調整」を図る必要が生ずるのが通常であるとし、使用者の時季変更権行使を適法としました。
計画的付与から義務化への流れ
年次有給休暇は本来、労働者が自由に時季を選べるはずです。しかし実際の取得が進まないことを改善するために、労使が協議して会社側が計画的に有給休暇を消化させる制度を導入することもできます。この計画的付与は判例の「事前の調整」を制度化したものともいえます。
会社が計画的付与を導入するには就業規則による規定と労使協定の締結が必要になります。計画的付与は一斉付与でも、グループ単位でも、個人単位でも構いません。夏季、年末年始に付与し大型連休にしたり、祝日に重ねて連休にしたり、本人や家族の誕生日、結婚記念日などをアニバーサリー休暇としたり、リフレッシュ休暇を設けたり、閑散期に計画的に付与したりする例が多いようです。
計画的付与が行われると、労働者は時季指定権を行使できなくなり、使用者の時季変更権も行使できなくなります。ただし、有給休暇のうち少なくとも5日間分は労働者に自由な取得を保証しなければなりません。
一方、有給休暇の義務化は逆に付与日数が5日間に限定されているものの、有給休暇の取得率を高めるために会社側が与えるという意味では計画的付与の流れに沿ったものといえます。
すでに計画的付与が行われている場合や、労働者の時季指定権が行使されている場合にまで強制する趣旨のものではありません。使用者が付与時季を定めるに当たっては、労働者に意見を聞き、時季に関する労働者の意思を尊重するように努めなければなりません。
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