カープ劇的優勝を支えた「老スカウト」の眼力 71歳の裏方は「将来の活躍」をこう見抜く

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カープは伝統的に、補強に莫大な資金をつぎ込むような球団ではない。1998年から2012年まで15年連続Bクラスに沈んだ時期もあったが、基本的にドラフトでいい選手を獲得して、自前で育成することが球団のアイデンティティになっている。

近年のカープのドラフト戦略は、上位で即戦力級の力を持った投手を指名し、2位以下で野手を指名するケースが目立つ。たとえば近年の投手のドラフト1位は、今村猛(2009年1位)、福井優也(2010年1位)、野村祐輔(2011年1位)、大瀬良大地(2013年1位)、岡田明丈(2015年1位)など。こうして層が薄かった投手陣が、少しずつ厚みを増していった。

そして注目すべきは、2位以下で獲得している野手の成功率の高さである。今季の中心選手を見ていくと、丸佳浩(2007年高校生3巡目)、菊池涼介(2011年2位)、鈴木誠也(2012年2位)、田中広輔(2013年3位)と、20代の若手が定位置をつかみ、伸びやかにプレーしている。いずれもアマチュア時代から注目されていた選手たちだが、当時は「大物ドラフト候補」と呼ばれる選手よりもワンランク下の扱いだった。

苑田スカウトはかつて、江藤智、金本知憲といったタイトルホルダーも担当している。野手を見るポイントはあるのか、聞いてみた。

「野手で最初からレギュラーを取れる力があると思ったのは、バッティングなら清原和博(元西武ほか)、守備なら立浪和義(元中日)くらい。プロに入ってから成長できなければ、レギュラーにはなれませんよ。見ているのは、体に強い力があるかどうかと瞬発力……というのかな。あとはプロの練習についてこられるだけの体力さえあれば。丸と鈴木なんか、高校時代から足も肩も強くて、体に力もありました」

評価できる三振とそうでない三振がある

苑田スカウトの言う「瞬発力」には補足が必要だろう。守備・走塁面だけにとらえられそうだが、打撃にも「瞬発力」はある。ボールを呼び込んで、瞬間的に強くスイングできる選手は「瞬発力がある」と苑田スカウトは考えている。

苑田スカウトの隣で大学野球を観戦していると、こんなシーンがあった。あるドラフト候補のスラッガーが外角のボールに対して、当てにいくような中途半端なスイングで三振を喫した。苑田スカウトは「自分の間(ま)で振れていない。同じ三振にしても、評価できる三振とそうでない三振があります」と言った。瞬発力がある選手は、三振をするにしても迫力が違うのだ。

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