若手を奮起させたカープ新井の「刺さる言葉」 25年ぶりVはこうして成し遂げられた

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今シーズン、新井はプロ通算2000本安打という大記録を達成したが、あくまでも本人は「個人記録より優勝」と言い、「たとえ1999本で終わっても、チームが優勝できればそれでいい」と周囲に語っている。これがほかの選手たちを意気に感じさせ、記録達成をチーム一丸で後押しする雰囲気が生まれ、全体の士気が上がるという、好循環をもたらした。記録達成時にはすべての選手が「まさか あのアライさんが…」という遊びのある言葉がプリントされたTシャツを着て、祝福するという温かいパフォーマンスもなされた。

仕事中はつねに見られている意識を持つ

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新井が若手から慕われるのは、なんといっても、つねに全力プレーをしている姿を彼らに見せているからだ。チーム復帰後のキャンプからすでに、なりふりかまわずレギュラーを狙う姿勢を見せている。

「一軍で戦力になれなかったら引退する。本気でそう思って練習に取り組んだ。それぐらい覚悟を決めて帰ってきたということを、若い選手にも、昔一緒にやってきた選手にも、裏方さんにもわかってもらいたかった。最初の頃は若手も、〈新井さんはどんな感じでやるのだろう?〉と見ていたはずだし、実際に見られている感もすごくあった」

そうした新井のプレーを見れば、若手たちも「もうすぐ40歳になるベテラン選手があそこまで自分を追い込んでいるのだから、自分たちもやらなければいけない」と発奮するのは必然だろう。

ベテランである自分の姿勢は、それが良い意味でも悪い意味でも大きな影響をチームに及ぼす――。それをつねに意識する姿勢が、若手選手に刺激を与え、新井本人のモチベーション維持にもつながった。

新井は、自身が尊敬する黒田博樹に、チームに対する「犠牲心」を感じるという。

「ピッチャーとして、黒田さんこそ〈エース〉と呼ぶにふさわしい存在だと思う」「本当のエースはチームを背負っているし、犠牲心のようなものが備わっている。自分の身を削ってでも、チームのためにプレーする。100球を超えようが何球でも投げる。中4日でも全然問題ない。少々、体が痛くても大丈夫だと、周りのことを考えて、自分を犠牲にできるピッチャーがエースだ」。

新井自身にもこの「犠牲心」がそなわっている。新井は自身がカープに戻った時、もちろん勝負のできる場所として復帰したわけだが、同じ内野手で一流の素質を持ちながら近年伸び悩む堂林翔太について、「〈新井さんには絶対に負けたくない。俺が試合に出るんだ〉というようになればいいと思っていた。それで堂林がひと皮剥けて、結果的に僕が試合に出られなくなってもいい、本気でそう思っていた」と語っている。

広島カープ25年ぶりの優勝の要因を、一言で語ることはできない。さまざまな理由があり、さまざまな分析ができるだろう。ただ、その背景に間違いなくあったのは、カープが強く若々しい集団へと変貌したという事実。そこには、チームの勝利のためにすべてをかけるという「犠牲心」を持つベテランの奮闘があったのだ。

大久保 泰伸 ライター

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野球ニュースサイト「Full-Count」や「ベースボール・タイムズ」で主に広島カープの試合観戦記事や選手たちのインタビュー記事を寄稿。新井貴浩著『赤い心』(KADOKAWA/2015・3)編集協力。直近では「ベースボールサミット第11回 特集広島東洋カープ 25年ぶり優勝へ『永久不変のカープ愛』」(単行本・ソフトカバー/2016・7・19)に丸佳浩・田中広輔・鈴木誠也などカープの主力選手の聞き取り記事を寄稿している。

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