後でクヨクヨする人が知らない「決断」の本質 感情マネジメントと経験で大局観を身につけよ

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脳には、何かの目的のために一時的に情報を記憶する、「ワーキングメモリ」という領域があると言われています。「脳のメモ帳」にたとえられたりしますが、言い換えれば、何かを考えるための作業台、とも言えます。

「遅い思考」の精度を上げるためには、このワーキングメモリが十分に確保され、脳のキャパシティに余裕があることが重要ですが、感情が揺さぶられると、大量に消費してしまいます。

・「いま買わないとなくなってしまう」といった不安や焦り
・「ケチだと思われたくない」といった見栄やプライド
・「この人が言うんだから間違いない」といった過剰な信念や義務感
・「こんな美味しい話は滅多にない」といった欲

 

こうした感情が大きく動くと「遅い思考」はうまく動きません。いわゆる「冷静に考えられない」状態です。感情は論理的な思考にとって強敵なのです。

セールスのテクニックでは感情を揺さぶるために、「タイムセール」「限定商法」などで不安や欲を駆り立て「遅い思考」を働かせないようにしているのです。

潜在記憶のワナから逃れるには?

とはいえ、「感情的にならないようにしよう」と思っても、感情の影響から逃れることは容易ではありません。

また、「論理的に考えよう」として、いくら「遅い思考」を発動して時間をかけて考えても、ベースとなる情報が片寄っていると正しい判断ができません。そして厄介なことにわれわれの脳はいったん、ある仮説を「正しい」と考え始めるとそれを正当化しようとします。正しいと考えている仮説に合致するような情報だけに注目したり、都合のいい情報だけが思い出されたりするのです。

そのような事態を避ける一つの効果的な思考方法は、いま自分が下そうしている判断とは対極のことを想定してみることです。

たとえばどうしても欲しい最新の家電を買おうとお店に行ったら、ずいぶんと高い値段を吹っかけられたとしましょう。このとき多くの人は自分の貯金残高なり、ローン計画なり、その商品を買って元が取れるのかといった計算をしがちです。

しかし、ここであえて思考を逆に振るのです。

「たとえばいまは買う前提で考えているが、逆に買わない選択をしたらどうなる?」

「相手が提示した金額を前提に考えているが、逆にこちらから希望金額を言えば?」

このように思考の前提をガラッと変えてみると、いままで気づかなかったことも考慮できるようになり、潜在記憶による思考の偏りを防ぐことができます。

それによって、自分の感情や欲に巻き込まれることから逃れて、広い観点から意思決定できるのです。

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