映画「君の名は。」にJR東日本が惚れた理由 大ヒットに隠された鉄道描写だけでない狙い

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この後、事態は急展開©2016「君の名は。」製作委員会

たとえばDVDレンタル大手のゲオが、この夏に実施した「映画をもっと楽しもう!」キャンペーン。映画の声の出演者がタイアップCMに登場し、映画鑑賞の面白さを語った。「ゲオ様にも大変好評で、成果の上がったタイアップだったと伺っています」(ジェイアール東日本企画)。

親会社のJR東日本とは、同社が展開する、東京の街を楽しむ「FUN!TOKYO!」キャンペーンとタイアップして、映画の劇中シーンに「FUN!TOKYO!」のポスターを登場させたほか、映画の舞台となった新宿、代々木など6駅をめぐるモバイルスタンプラリーを実施した。

さらに、新型山手線車両「E235系」をジャックし、「君の名は。」の広告とタイアップ企業の広告で電車を埋め尽くす展開を行なった。「ファン垂涎の企画として、SNSでも話題になりました」。

当初は、鉄道のシーンが多いからジェイアール東日本企画が出資したのかと思われたが、練り込んだタイアップ展開が行なわれたようだ。成功すればタイアップによる利益のほか、映画の知名度向上にもつながる。広告代理店ならではの相乗効果の高いビジネスといえる。

JR東海の列車も活躍

ところで、「君の名は。」には、JR東海エリアの鉄道シーンも多く登場する。東京に住む男子高校生や友人たちが東海道新幹線に乗って、田舎町に住む女子高生に会いに行く。名古屋駅で新幹線から乗り換え、JR東海の在来線エリアをめぐる。特急「ワイドビューひだ」などの列車が登場する。

JR東海はこの映画の制作協力会社には名を連ねていない。実は、映画の中で現実の東海道新幹線ではありえないシーンが登場する。映画の評価を左右するほどではないが、なまじ絵がリアルに描かれているだけに、かえって違和感が際立つ。映画の制作スタッフとJR東海の間でコミュニケーションが取れていればこうした描写は避けられたはず。JR東海にとっても自社エリアの観光貢献につながる。今後、映画と鉄道会社の距離がもっと近くなれば、お互いにとっていいことに違いない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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