西武と東武、埼玉の"宿敵"が手を組んだ理由 東上線車両が「ライオンズトレイン」に変身

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ライオンズカラーのTシャツの中央には東武の車両が描かれている

この試合を記念してライオンズ球団が作成したコラボTシャツは、“レジェンドブルー”と称されるライオンズのチームカラーで彩られ、ローマ字で「TOBU」と「SEIBU」の文字がはっきりと書かれている。中央にある車両は東武のものだ。そして右上にはライオンズ球団のマーク。西武と東武という埼玉県内におけるライバル会社がTシャツ上で一体となったのである。

ライオンズが東武とのコラボを思い立った理由について、「自治体と連携してファン層を拡大しようと考えたから」と、球団の担当者は説明する。ライオンズのファンをエリア別に見ると、いちばん多いのが埼玉県内の西武線沿線の利用者、次いで東京都下の西武線沿線の利用者。東上線沿線の利用者は3番目だという。

西武線沿線のファンが1位、2位の占めるのは当然かもしれないが、埼玉を地盤とする球団としては、東上線沿線の市民にもライオンズを「地元の球団」と思ってもらいたい。そこで、ふじみ野市など沿線自治体との連携活動を進める中で、東上線とのコラボにつながったというわけだ。

ライオンズの動きに東武も呼応した。東上線の車両にライオンズのヘッドマークを付けた「ライオンズトレイン」の運行を8月24日から開始したのだ。車内には9月17、18日の試合が割引料金で観戦できるチラシが所狭しと貼られている。PR効果は抜群だ。

川越での乗り換え時間短縮

西武と東武のコラボ実現には伏線があった。今年2月、西武新宿線・本川越駅に西口がオープンし、約350メートル離れた東武東上線・川越市駅との乗り換え時間が大幅に短縮されたのだ。

本川越駅の出口は、丸広百貨店などの繁華街や喜多院などの観光地に近い東口しかないという状態が続いてきた。本川越駅の西側にある川越市駅は本川越駅と350メートルしか離れていないにもかかわらず、本川越駅の西側に出口がなく、住宅街を回り込んで東口に出る必要があった。

しかし、2月に西口が設置されたことでそれまで11分かかっていた乗り継ぎ時間は5分に短縮された。「東上線沿線の人が西武プリンスドームに応援に行きやすくなりました」と、ライオンズ球団の担当者も喜ぶ。

東武側もライオンズとのコラボには手応えを感じており、「ぜひ第2弾をやれたらいい」(広報部)と意気込んでいる。埼玉県内を走る東武の路線は伊勢崎線や野田線もあるが、両線とも西武プリンスドームのある西武球場前駅とはかなり離れている。やはり東上線でのコラボを続けるのが順当かもしれない。

むしろ、西武と東武がインバウンド戦略で協力するというのはどうだろうか。東武のスカイツリーはリオデャネイロ・オリンピックの閉会式に登場するなど今や世界的な観光名所であり、西武と東武が乗り入れる川越は自治体がインバウンド誘致に積極的だ。現在、西武と東武はどちらも台湾の鉄道会社と提携関係にあり、これを3社協定にするという方法もある。2020年の東京オリンピックを見据え、鉄道会社がやるべきことは山ほどある。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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