「万引き老人」がここまで蔓延してしまう理由 やる前に「させない」工夫が必要だ

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後ろや横を確認したり、挙動が明らかにおかしかったりするから、万引のほとんどは見つけられます

伊東:そこを張っていると、万引のほとんどは見つけられます。後ろや横を確認したり、挙動が明らかにおかしかったりするからです。

でも、時々空しくなることがあります。やっていることは、ネズミ捕りのようなもの。本来ならやる前に「させない」工夫が必要です。棚を低くしたり、死角になりやすい場所を減らしたり、できることはたくさんあるはずです。

「声かけ」の意図はどこに

常見:伊東さんは「声かけ」を推進されていますよね。その意図はどこにあるのでしょうか?

伊東:ぼくの仕事は、犯人が商品をもって店の外に出たところまで見届けないといけません。そうしないと犯罪が成立しないからです。ですが、本来なら店の中で商品を隠した瞬間に声をかけ、犯行を未遂化させた方がいいでしょう。商品も無駄になりませんし、万引後の手続きもなくなります。

初犯の人の場合は、明らかにすぐわかるので、「やめといた方がいいよ、店員さんみてたよ」とぼくも声をかけることもあります。「そうだね、ありがとう」と言って、パッとレジで買ったりする。「ありがとう」って言うんです。それでいいと思うんです。

万引をするのはたいてい「地域のスーパー」です。買い物に利用する確率は高い。常見さんがみた子どもの例のように、地域でさらしものにされてしまうと、より孤独になり、また犯罪に走ってしまうかもしれません。

常見:とはいえ、万引をしている人に声をかけるのはこわいと思うのですが。

伊東:一般の方が、声をかける必要はないと思います。お客さんまで万引Gメンになってしまうと、トラブルが起こってしまうでしょう。

お店の方には、ぜひあいさつをはじめとする積極的な声かけを日々意識していただきたいと思います。ガラの悪いちょっと怖そうな人や外国人にはおじけづいてしまうかもしれませんが、小学生や高齢者なら声もかけられるのではないでしょうか。

それでも声をかけるのが難しいようであれば、それとなく目を合わせてみる。それだけでも十分に犯行を断念させることができるのです。地域に密着している商店から犯罪者を生み出す前に、声をかけやすい高齢者だからこそ、犯行を断念するチャンスを与えたい。店内声かけは「万引老人」を減らせる可能性が十分にあると、ぼくは確信しています。

文中にも写真が出ているが、対談を収録した下北沢B&Bで、伊東さんに万引き犯の行動を実演してもらった。そうか、こうやったら見えないのだと目から鱗だった(もちろん、真似はしないのだが)。万引きに使える、センサーを遮断する袋などがネットオークションで取引されていた話なども、衝撃だった。
なお、余談だが・・・。できればないことを祈りたいのだが・・・。もし、子供にしろ、親にしろ、家族が万が一、万引きをしてしまった時に、身柄を引き受けに行く時にどうするべきかというアドバイスまで頂いた。その時は、ひたすら真摯に謝る様子を見せること、その場で責めない方が良いとのことだった。特に泣いて謝っている姿を見せると心に響くのだとか。そんな場面に遭遇しないことを祈りたいが、ご参考までに。

(写真・構成:山本 ぽてと)

常見 陽平 千葉商科大学 准教授、働き方評論家

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つねみ ようへい / Yohei Tsunemi

1974年生まれ。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。同大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。リクルート入社。バンダイ、人材コンサルティング会社を経てフリーランス活動をした後、2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師に就任。2020年4月より現職。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など著書多数。

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