リクルート、「19歳・雪山ブーム」の仕掛人 ”スタートアップ屋”の、すさまじい開拓力

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研究員なのに、全国各地に"仁義を切りに"行く

「リクルートは業界を壊すつもりなのか」

こうした声を、加藤は研究所の中で、また聞きしたわけではない。営業担当者らと現地に足を運ぶ中で、毎日のように直接耳にしていた。

スキー場のリフトはガラガラでも満席でもコストは同じだが、リフト券無料でやってきたお客は、スキーのレンタル代、食事代、宿泊代を落としていってくれる。そこでお客が雪山にはまれば、次の冬は有料でも来てくれる可能性もある。

”無料化”にはそんな大きなメリットがあると、全国のセミナーで説明して回る加藤を待ち受けていたのは、大半のスキー場、リフト業関係者の拒絶反応だった。

それも無理はない。オンシーズンでも閑散とし、業績難に苦しむスキー場。大事な収入源であるリフト券の一部を無料開放すると聞けば、驚くのが普通だろう。「ますますデフレが進む」「ありえない」と憤慨され、説教されることもザラ。「昨日、○○社長から『加藤さんが来ても、絶対に話を聞くな』と言われたよ」と、うわさが広がっていたこともあったという。

ただ、そんな逆風があっても、加藤は引かなかった。

加藤が心掛けたのは、コミュニティに食い込むことだ。自分の人となりを知ってもらい、たとえこの企画を導入してもらえなくても、意見を言い合える関係を多くの関係者と作る。地元コミュニティを何よりも重視する地方の企業や観光業界とうまくやっていくためには、それが欠かせないからだ。

賛否両論あるスキー場に行く際には、“援軍”として、企画に賛同する社長さんに同行してもらうという”奥の手”も用いた。賛同する経営者と親交を深める中で、別の経営者を紹介してもらう、という循環も生まれた。

そうして全国津々浦々、こつこつと歩き回るうちに、初年度にして北海道から九州まで89か所のスキー場から賛同を得ることに成功したのだ。

社内外の人々の、心を揺り動かす

一方、社内においても”仁義を切る”必要があった。スキー場は宿泊施設も一緒に経営しているところが多く、スキー場の経営者が離れれば、『じゃらん』の宿の広告まで落ち込む可能性があったのだ。

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