弱者の兵法:英語下手が英語圏で勝ち抜く策
MITの試行錯誤で見つけた、英語力の磨き方(上)

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2. 情報にストーリーを伴わせる

1000ページの辞書を通して読む人はいないが、1000ページの小説なら読めるのはなぜか。数年前の授業の内容は思い出せないのに、映画の内容ならば鮮明に覚えているのはなぜか。

それは後者にストーリーがあるからだ。

私見だが、人間はストーリーを伴った情報に敏感であるようにできている生物なのだと思う。日本神話やギリシャ神話がストーリーとして語り継がれたことも、聖書が教訓の羅列ではなくストーリーとして書かれたことも、この人間の特性に理由があると思う。同じ情報でも、ストーリーを伴う情報のほうが、伝わりやすく、記憶されやすいのだ。

ならば、プレゼンテーションや論文、企画書、報告書など、あらゆる場面において、この人間の特性を利用しない手はない。つまり、情報にストーリーを伴わせるのだ。

ストーリーのない情報は、スーパーに並ぶ挽き肉

ストーリーはシンプルなものがよい。そしてドラマティックなものがよい。つまりは「起承転結」である。たとえば、桃太郎のストーリーを思い出してほしい。

:鬼ヶ島の鬼が悪さをし、村人たちを困らせている。

:しかし、鬼たちは手ごわく、なかなか退治できずにいた。

:そこで、桃太郎は、犬・猿・雉を味方につけ、鬼ヶ島に向かった。

:見事に鬼をやっつけ、金銀財宝を持ち帰った。

この典型的な勧善懲悪型の起承転結は、そのまま研究やビジネスのストーリーに応用できる。例えば、僕が宇宙工学と平行して取り組んでいるスマートグリッドの研究の論文ならば、こうなる。

:地球温暖化は深刻な問題であり、自然エネルギーの大量導入が喫緊の課題である。

:しかし、太陽光や風力は発電量に不確定性があるため、需給不均衡のリスクが発生することが大きな問題であった。

:そこで、われわれはリスクを定量的に抑制できる新たな電力網制御技術を開発した。

:実データを用いたシミュレーションによって、われわれはこの技術の有効性を立証した。

ストーリーのない情報とはスーパーに並ぶ挽き肉のようなものである。ストーリーとは骨格だ。ストーリーのある情報とは人間の形を成す肉なのだ。どちらがより人の興味を引き、記憶に残るか、自明であろう。

僕はMITの博士課程にいた頃、プレゼンテーションの練習をし、論文の下書きを見てもらうたびに、先生から、「ストーリーが不明瞭だ」「ストーリーが一貫していない」「この情報はストーリーから外れている」と、ひたすら「ストーリー」について指導された。この人は研究者ではなく小説家か映画監督ではなかろうかと思えるほど、ストーリー、ストーリー、ストーリー、そればかりだった。

このように、アメリカでは教育において、筋の通ったストーリーを組み立てて情報を伝えることをたたき込まれる。日本人が彼らの土俵で勝負するには、それを意識的に行う必要があるのだ。

そして、ストーリーを組み立てて話したり書いたりするほうが、より伝わりやすく、より記憶されやすいのは、日本語においてもまったく同じであると思う。僕は小説を書くのだが、それと同じ思考回路を使って、研究の論文や、この東洋経済オンラインの連載記事を書いている。

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