「カン違いの多い人」が知らない会話の本質 人は自分が「聞きたい」ように聞いている

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あなたは「コミュニケーションはキャッチボールである」と思っていませんか?これはコミュニケーション研修などでよく使われるたとえですが、実はコミュニケーションはキャッチボールのようなものではありません。それとは全く違うものです。

コミュニケーションを何かボールのやり取りのように考えることが、コミュニケーションについての誤解を生み、結果的にコミュニケーションミスを誘発する要因にもなっています。では、コミュニケーションとはどういうものなのでしょう。

他人の話は、無意識に自分の記憶を元に理解している

コミュニケーションでは、やり取りされる言葉(キャッチボールでのボール)に注意が向きがちですが、重要なのはそれぞれの人の中で思い出されている「記憶」です。それこそがコミュニケーションで伝えようとしていることであり、伝わっていることなのです。具体的な例も挙げながら解説していきましょう。

話し手が自分の記憶にある経験を他人に話すとき、その記憶のすべてを言葉にするわけではありません。たとえば、「昨日、渋谷で友人とお酒を飲んだ」と誰かに話すとしましょう。しかし、「昨日」といってもそれが朝なのか昼なのか夜なのかわかりません。また渋谷といっても渋谷のどこなのか、そもそもお店だったのか自宅だったのかも省略されています。

こうしたすべてを言葉にしていては会話が成立しません。ですから、そのとき話し手は必ず情報を「省略」します。

普段は「何が省略されている」ということをわざわざ意識しなくてもコミュニケーションは成立します。それは、話し手の言葉の省略された部分を、聞き手が無意識に記憶を連想し、自動的に補完しているからです。

ただ、話し手が話した記憶と、聞き手が連想した記憶は、もちろん異なります。蓄積してきた「記憶」が違うわけですから連想ゲームのように結果が違って当然です。

普段のコミュニケーションでは、聞き手は自分の記憶を頼りに相手の言葉の省略されている部分などを補完し、解釈を加えて理解(したつもり)となります。

こうした思い出していること自体が意識にのぼらない記憶のことを認知科学では「潜在記憶」と呼びます。(ちなみに意図的に思い出そうとする記憶のことを「顕在記憶」といいます。)

職場におけるコミュニケーションミスはそれなりに知識や経験が増えてくると起こりやすくなります。というのも、相手の言葉を聞くことによって引き出される記憶が、知識や経験がある人ほど多くなるからです。そのせいで、相手が意図していた言葉の意味とは違う記憶が無意識に反応してしまいがちになります。

たとえばあなたが後輩から仕事の相談を受けたとします。あなたの頭の中にはその相談に関連する知識や経験が豊富にあります。すると関連する記憶が次々と活性化され、「ああ、あのことね」「後輩の悩み所はここだろう」といったように「わかったつもり」になってしまうわけです。これが勘違いのもとになります。

逆に記憶のストックの少ない新人は、相手の話のキーワードが自分の記憶に結びつきにくいので、省略された部分を補完することができません(だから上司は丁寧に説明しないといけないのです)。

仕事でのコミュニケーションミスといって真っ先に思い浮かぶのは、情報の伝達ミスではないでしょうか。つまり相手に伝えたと思ったのに実は相手が正しく理解していなかったケースです。

簡単な仕事の指示やアポの日取りといった情報なら、情報をできるだけ省略せず、かつ相手が間違えそうな箇所を強調するなどして説明すれば、おおかた伝わります。

しかし複雑な仕事の手順など、相手の理解力が問われる情報はいくら丁寧に説明しても完全に伝わるかどうかわかりません。そこで効果的なのが相手に復唱してもらうことです。

『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(KADOKAWA)の著者で、学習塾教師である坪田信貴氏は、その著書のなかで生徒に教えたことを復唱させることの重要性を説いています。

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