13期増収!「広島市信用組合」のスゴい経営 カープお膝元の信組は何が特別なのか?

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総資産6299億円のうち、貸出金が4626億円を占め、中央機関である全国信用協同組合連合会(略称全信組連)への預け金は1496億円。有価証券は105億円しかない。預金との割合では、預預率は27.2%、預証率はわずか1.9%。

信組の平均はそれぞれ31.7%と23.3%、信金の平均は32.0%と24.3%。預貸率が5割前後に留まる中、中央機関への預け金と有価証券に余剰資金を振り分けていて、その比率が概ね3対2というのが信金・信組のバランスシートのごく一般的な姿だ。

軒並み減益予想の中、過去最高益更新を計画

懸念材料を挙げるとすれば、中央機関への預け金残高が過去3年間で急上昇している点だろう。預預率は2012年3月期は13.72%だったが、2期連続で1年に3ポイントずつ上昇。2015年3月期に20%台に乗り、2016年3月期は一気に6ポイント以上上昇して27.28%になっている。「さすがに預金量の増加に貸出増が追いつかない」のだという。

信金でも信組でも、中央機関への預け金利率は市場連動を建前にしながらも、マイナス金利下でもプラスに保たれている。だが、運用難に苦しむ信金・信組は、預け金の金利がマイナスに転じたらひとたまりもない。中央機関の運用責任は重い。

シシンヨーは今期、14期連続増収、コア業務純益、実質業務純益、経常利益、当期純利益全てで過去最高益となる業績予想を立てている。大半の金融機関が減益予想を立てている中、これに逆行する計画を立てられるのは、2015年3月期に多額の貸倒引当金を積んだ効果が出るためだ。

シシンヨーは多くの金融機関が貸倒引当金を取り崩して過去最高益となった2015年3月期に、不良債権処理を進めて37億円の貸倒引当金を計上している。そのために業務純益の連続増益記録が10年で途絶えたが、その効果が2016年3月期から出始めており、今期以降も継続するという。

過去5年間は不動産関連の融資が貸出増を牽引した。個人が賃貸ビルを建設したり、農地に学生寮を建設したり、再開発が進んでマンション建設が進み、近郊から都市部へ人が流入する流れに乗った。

「不動産は既にピークアウトしたが、他業種で貸出は増やせる」という。一見非効率に見えるシシンヨーの愚直な営業スタイルは、地道に若手選手を育成するカープのスタイルと通じるものがある。

331億円と言われるカープの優勝効果が今期業績の追い風になることは間違いない。真価を問われるのは来期なのかもしれない。

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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