中国の若者が普通の「日本料理」に夢中なワケ グルメドラマ・映画の影響力は想像以上だ

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それに対し、中国のドラマでは、家庭のキッチンなのにピカピカな調理器具ばかり、給料が安い新入社員なのに、広い部屋に住んで高級ブランドを使う。あるいは区別もできないほど、全員同じようなきれいな顔をしている。つまり、リアル感が足りないのだ。いくら美味しそうな料理が登場しても、自分の生活から離れている「架空」の話なので、なかなか感動できない。日本の料理ドラマは、異国であってもリアル感と親近感を感じる。ドラマの中の食堂で起こったことを登場した料理に重ね、印象が深まり、興味や関心を抱くようになる。

そして、簡単な料理でも工夫を加え、食べる人の思いを考え、丁寧に作る料理人も新鮮である。中国では、料理人というと毎日油と煙の厨房に居て、汚いエプロンを着て、腹が出ている「怖い」おじさんのイメージが強い。お客さんと接触もしない。客側も「まずい」と言ったら怒られるので、我慢しないといけないと思われている。

これは、中華料理に炒め物が多く、オープンキッチンやカウンターもないので、お客との距離があるからである。したがって、料理人はあくまでブルーカラーの職業。料理するという仕事の「匠精神」は、日本のドラマで初めて知ったといっても過言ではない。

居酒屋での食事は日本で欠かせない体験

古くてもアットホームな場所で、清潔感のある料理人が目の前にいる。おしゃべりしたり、玉子焼きやサンドイッチのようなシンプルなメニューでも工夫をして作ってくれることは、今までにない食体験となる。そして、一人でも座って平気で食べられるし(中国では一人で食べるのは珍しい!)、むしろそれは自分に向き合う体験にすらなる。

料理を作ることに「丁寧さ」「職人感」を加えると、食事というのも、単なる空腹を満たすことでも見栄を張ることでもなく、丁寧な料理や料理人との「対話」になる。この「対話」を通して、お腹だけでなくココロまで満足する。そう考えると、ドラマで見るだけでは飽き足りなくなり、自分も日本に行って体験したくなるのは自然であろう。

中国の若者は、親世代のように、大勢の人とわいわい言いながら、高い食材を使った見栄を張った料理を食べるのがよし、という考えをしなくなった。もっと自分重視、もっと普通の食事を楽しみたい、もっと丁寧に暮らしたい、もっと自分の食べたいものを食べたい……。少しずつ、日本の若者に近づいているのではないかと思う。彼らは中国でも日本料理を好むし、日本に行くチャンスがあったら、欠かせない体験として居酒屋に行き、ドラマの物語と重なるバターライスを食べることになるであろう。

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