2050年の日本、夕張で学んだ「支える医療」 村上智彦氏(医師、NPO法人ささえる医療研究所理事長)に聞く

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──支える医療にシフトしていくにはどうすればいいですか。

戦って勝つ医療の裾を引きずって、たとえば施設で血圧や体温を何回も測るのは愚の骨頂ではないか。風呂に入る前にも測るが、80歳以上の人の正常値を私は知らない。どのくらいなら長生きできるかもわからない。さらに、長生きしているのに食事制限してどうなるのか。戦って勝つ医療をそのままの形で続けている。それでは誰もハッピーにならない。

支える医療はそうではない。長く入院させないで、家に帰して、往診で医者と看護師が支えていけば、医療の内容はほとんど変わらないし、本人もハッピーになる。洗車場みたいな感覚で、入院したらきれいになって帰ってくると思ったら大間違い。そもそも不安だけを理由に入院させるのはもってのほかだ。

──医者の数が少ないのも問題ではないですか。

人口比で先進30カ国中の27位だ。少ない分、医者はすみ分けをきちんとしたらいい。病院は本来入院のためにある。緊急のためにつねにいくつかはベッドを空けておく。高齢患者の絶対数は確実に増えていくが、予防ケア、在宅ケアを主体にして、なるべく家で過ごしてもらう。

──歯科医は過剰といわれます。

そんなことはない。歯周病には、実は脳卒中や心筋梗塞、肺炎、認知症、糖尿病、さらには早産のリスクさえある。つまり口腔をケアし、歯周病を予防するだけで、高齢者に多い肺炎、認知症、脳卒中などが減る。

たとえば誤嚥(ごえん)性肺炎は口腔ケアをしっかりやれば4割減るという論文がある。試算では、肺炎は1人当たり医療費が50万円ほどかかる。日本の高齢者数や罹患(りかん)率、施設数から試算すると、これで医療費は約400億円軽減する。その軽減した分を歯科医の人件費に回しても理にかなう。

──働き盛りの人の健康心得は。

「掛かりつけ医」を持つか、定期検診をきちんと受けることだ。検診データを持っていれば、いざという時の判断材料になり、リスクを減らせる。救急においても検査情報があったら受け入れる医者は増えるだろう。俺は大丈夫だなどと言わずにまず検診を受けることだ。

(撮影:吉野純治、週刊東洋経済2013年4月6日号)

『医療にたかるな』
新潮新書 714円 190ページ

塚田 紀史 東洋経済 記者

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つかだ のりふみ / Norifumi Tsukada

電気機器、金属製品などの業界を担当

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