終身雇用の「崩壊」は、こうして売り込まれる 人事コンサルの資料から見えた「逃げ道」は?

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この資料に対して、あるメーカーの組合関係者は「こうした提案が、日本企業に広く売り込まれ、気に食わない人を辞めさせるためのツールになっている。きちんとした雇用が維持されることで、家族も守れるし、家も建てられる。労働者をモノとみないで、人として扱って欲しい」という。

報酬の後払い要素が強く、他社でも通用する能力を社内で育成する仕組みもなく、人事評価制度が恣意的で、社内でも自主的なキャリア形成など望むべくもなかった人が突然リストラされたら、それを自己責任とするのはあまりに酷だろう。年功序列、終身雇用を前提として尽くしてきた人が、不意打ちにこうしたことを突きつけられるのは、理不尽であり、悪質な「使い捨て」企業と言われても仕方がない。

「イグジットマネジメント」は常識になる

しかし、これから長く働く必要がある若い世代は、こうした主張は成り立たなくなるだろう。もはや一度入社すれば、右肩上がりで待遇が保障される会社は絶滅しつつあることが明らかだからだ。資料の中でも指摘されているが、「ポジティブな新陳代謝」のない組織は、社員の思考と行動の硬直化を招き、競合企業に遅れをとる恐れがあることは、現実的な懸念だろう。昨今における経営戦略上、最も重要と考えられているのは「組織の新陳代謝」であるということは、避けて通れない現実なのかもしれない。

結果として企業として立ちいかなくなってしまえば、そもそも終身雇用など幻想にすぎないことは、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収され、リストラが噂されるシャープを見ていても明らかといえる。ある上場IT企業の人事責任者は、「退職率をある程度維持することが、一定の目標になっている」と公言する。もはや、終身雇用の「終わり」を象徴する「イグジットマネジメント」は、人事業界では常識というレベルの話だ。

労働者は、こうした考え方が常識的なものになっていく時代で働いていくにあたり、自分を防衛する必要がある。まず、若い時に将来につながる仕事ができているかどうかを、常に考えることだ。これから先は、定年を迎えたあとは悠々自適、といったライフスタイルは、特権的なものになる可能性が高い。自分が40代から60代、さらにはその先も見据えて、安定して報酬を受け取ることができる価値を作る意識を持つことが、重要になってくる。

そうした意味では、今回紹介した人事コンサル会社の資料で示された4つの人事施策ポイントは、方向性としては筋が通っている。逆に、こうした施策がないのに、将来につながる仕事をさせず、雇用保障もしないような会社ならば、無条件に尽くすことをすぐにやめ、次につながる行動を一刻も早く取る必要があるといえるだろう。

関田 真也 東洋経済オンライン編集部

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せきた しんや / Shinya Sekita

慶應義塾大学法学部法律学科卒、一橋大学法科大学院修了。2015年より東洋経済オンライン編集部。2018年弁護士登録(東京弁護士会)

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