貧困に喘ぐ人と「支援者」がすれ違う根本理由 困窮者支援のはずが政治的な運動に…

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僕の執筆活動の範疇でも、セックスワークに被害者的な立場で従事している女性と、セックスワーカーの社会化や環境改善を目指す人たちのズレとか(随分改善傾向だけど)、同じく被害者的セックスワーカーの声だけピックアップしてしまう支援者とか、生活保護者にケアではなく就業支援を勧める人たちとか。この連載の端緒であった、貧困者の可視化をしたいと思うメディア従事者もまた同様だ。

どの支援者も当事者のためになろうという善意で動いているし、温かく有能な人たちであるはずが、すれ違ったり、支援者同士で対立をしたり、当事者とまで対立してしまったり、そんな混乱の中で論点がまったく別のところにぶっ飛んで、困窮者支援のはずが政治的運動になっちゃったり。結局、いちばん大事にしなければならないはずの当事者のQOLが置いてけぼりになったりしている。

そこで本記事の頭の提議に戻って言葉を言い換えるなら、非定型発達者を定型発達になるように「矯正」することが、そもそも非定型発達者のQOL向上につながるのだろうか? それは押し付けだし、そもそも非定型発達者に対する排除傾向が強い日本社会に問題があるのではないかということだ。

これは少し論が走りすぎな感じもするが、実は僕が取材で「明らかに日本社会ではうまく溶け込めない」と思う非定型発達な元子どもの貧困者にけっこうありがちなのが、「外国人」だとか「帰国子女」的なパーソナリティだ。極端な個人主義や自己主張とか、約束(特に時間)に対する認識の低さや、マウンティングコミュニケーションに偏りがちなところだとか。

こんな彼らは日本社会ではうまいこと働けないかもしれないが、案外、米国などに行ったら没個性なパーソナリティで普通に働けてしまうのではないかと思うことも多い。

とはいえ、そうした日本の社会側に多様性を開いていく、本来の意味でのダイバーシティ的なものだけに頼るのは、困窮者支援の施策としては目標が遠大すぎるし、むしろ現状の、特に若者社会においてはまったく逆の方向を向いている。昨今の10代20代の「空気読めないとヤバい」感は加速する一方で、空気読める子は読める子、ちょっと読めない子はちょっと読めない子、かなり読めない子はかなり読めない子同士のグループに非常に細かく分断されて、生い立ちや好みなどがさらにそのグループを細分化して、それぞれに排除と孤立を生み出しているように感じてならない。

SNSでは自分に近い属性同士で固まるだけ

SNSをはじめとする、属性で細かく分断されてもコミュニティを形成できるツールがたくさんあるのは、そうとう空気読めなくてどこに属すればいいのかわからない子どもだった僕などにはうらやましくて仕方がないが、貧困報道に対する反応など見るかぎりそれは多様性を認める側ではなく、逆の自分に近い属性同士でそれぞれの論が先鋭化してしまっているだけのようにも感じる。

こんな中で、社会そのもののダイバーシティがどうのこうの、政策や経済界レベルで話し合っても、今、そこで苦しんでいる貧困者にその効果が届くのはいつよ?という話だ。

ならば、こうしたことをすべて考えたうえで、どうすればいいのだろうか? 貧困者支援に新たなアプローチはないものなのか。「発達支援的ケア」もたどり着いたひとつの案ではあるが、頼りない。次回、この連載は最終回として、これまでの貧困当事者への取材経験や僕自身の高次脳機能障害体験などから、より前向きな支援モデルを提言してみたいと思う。

鈴木 大介 ルポライター

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すずき だいすけ / Daisuke Suzuki

1973年、千葉県生まれ。「犯罪する側の論理」「犯罪現場の貧困問題」をテーマに、裏社会や触法少年少女ら の生きる現場を中心とした取材活動 を続けるルポライター。近著に『脳が壊れた』(新潮新書・2016年6月17日刊行)、『最貧困女子』(幻冬舎)『老人喰い』(ちくま新書)など多数。現在、『モーニング&週刊Dモーニング』(講談社)で連載中の「ギャングース」で原作担当。

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