貧困に喘ぐ人と「支援者」がすれ違う根本理由 困窮者支援のはずが政治的な運動に…

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看護師を目指して大検取得して看護大学に入るため、DV彼氏の下を脱出。元客の20歳年上の予備校講師と結婚し、通信制高校にも入学した。この脱出の際に、DV彼氏の大事にしていたゲーム機類を全部ユニットバスの浴槽で水浸しにした画像をmixiにアップしたのは爆笑もので、僕も思わずその画像を保存してしまったものだ。

だがなんと春名さん、たった3年でこの予備校講師の夫と離婚して、かのDV彼氏と元サヤに戻り、再びキャバ嬢になってしまった。それでくだんの発言である。

「やっぱりね……。ぶっちゃけ言ったらそのね。あたしは……“こっち側”が、楽なんだ~~~って、あの。そう思っちゃったんですよお。旦那はね。優しかったですよ。頭いい人だし、あたしの生い立ちとか元デリ嬢だったこととかも、何も文句言わないし、聞いてくることもなかったけど、何か旦那の住んでる世界ではあたしは独りぼっちなんだって思っちゃったんです。だいたい言ってることは旦那が正しいし、あたしを責めることはなかったんだけど、正しいことが正しいってワケじゃないってことを旦那はわかってくれなくて、たぶん一生かけてもその溝は埋まらないって思っちゃったら、寂しくて寂しくて、仲間のところに戻りたいなあって、それで飛び出してきちゃった」

余分な句読点や3点リーダーは省かせてもらったが、この禅問答のような理由で、春名さんは夫の下を飛び出してきて、元の世界に戻って来てしまったのだ。

「具体的にどんなすれ違いがつらかったの? 子育てとか将来の方針とか?」

「いやあ……家具の配置とか? 私服の色とか?」

いやまて、家具の配置で、自分の夢を実現させてくれる夫を捨ててDV彼氏と元サヤなのか!? もちろん家具の配置だけではない何かがあったのだとは思う。けれど、こんな春名さんの言葉を聞いて、どうしてだろう。面倒くさい人たちの取材を続けてきた僕には、彼女の言葉がとてつもない説得力を持って迫ってくるのだ。

なぜトラブルまみれの人生に戻るのか

春名さんは、生育環境からくる非定型発達者だったように思う。だが、これまでの取材でも、支援者さんとの情報交換の中でも、こうしたトラブルまみれの生育環境に育ってトラブルまみれな人生を送っている彼ら彼女らは、そのトラブルのない人生に踏み出しても元の世界に戻ってきてしまうということが、あまりにも多い。

春名さんにとって、かの予備校講師の夫は私的な支援者で理解者で、彼女をその貧困の連鎖から救い出してくれる存在だったかもしれない。が、彼女はその可能性を振り切って元の世界に戻ってきた。

なぜだろう。ここで突きつけられる現実が、「非定型発達者は非定型発達者同士のコミュニティの中にいるかぎり、比較的高いQOL(生活の質)を感じながら生きることができる」ことである。

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