アマゾンの「脱秘密主義」が意味していること シアトルは「ポスト・シリコンバレー」に?

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この書店は、言うならば「現実化するビッグデータ」であり、インターネットだけで完結することがもはや飽和点を超えたと、世界最大のオンライン・リテール企業が、強く主張しているように見えます。

面白いのは、Amazon.comでの評価が4.0以上のものだけを厳選して販売している点で、カスタマーの評価コメントが、そのまま表示されている書棚もありました。よく書店の店頭に出ている「ベストセラー」の平積みの代わりに、「4.8★以上」の平積み台もあります。また、価格がオンラインとまったく同じなのも特徴です。

もうひとつ、徹底的な秘密主義で知られるAmazonが、今年の夏から本社ツアーを開始しました。

いまやAmazonの城下町とも言える市内のサウス・レイク・ユニオンは、ジェントリフィケーションによって倉庫街が大再開発され、Amazon関係で30ものビルが立ち並び、およそ約2万人の従業員が勤務する地区です。この従業員数は、シアトルの赤ちゃんからお爺さんまで含めた60万人強の人口を考えると驚異的な数字です。

ちなみに、Amazonは犬を同伴できる企業としても有名で、従業員2万人に対して、犬が2000匹もいます!

シアトルが「ポスト・シリコンバレー」になる条件

この徹底した秘密主義で知られるAmazonがオープンに向かう姿勢は、時代の変化にあわせたものとも言えますし、同じシアトルに設立されたグーグルやフェイスブックの「エンジニアリング・ラボ」との人材獲得合戦のためとも言えます。

ここ数年、サンフランシスコやシリコンバレーの生活コストが驚くほど高騰し、優秀な人材が域外へと流出しており、その受け皿となるひとつがオレゴン州のポートランドで、もうひとつがワシントン州のシアトルなのです。
情報産業大手は、このふたつの地域に大型研究所を次々設け、優秀な人材獲得に余念がありません。

どんなに魅力的に見える企業でも(特に収入面で)、クオリティ・オブ・ライフを求め、シリコンバレーから移ってきた人々と、秘密主義は相入れません。そこで、シアトルの新城主であるAmazonは、本社ツアーを開始し、また長年街のコミュニティとの結びつきが弱いと言われる批判を払拭しようと、開かれた企業姿勢を前に出しています(まだまだだと思いますが)。

現在、シアトルはAmazonとマイクロソフトのサービスにより、市場の70%近くを集める「クラウドコンピューティングの首都」とも呼ばれています。セキュアなクラウドと街と一体になるオープンな企業姿勢。この両輪がバランス良く回れば、シアトルはシリコンバレーよりもあたらしい街づくりができることでしょう。

今後が、楽しみな旅先になりました。

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高城 剛
たかしろ つよし

1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

 

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