うつ病社員を、“法律視点"で救え! 専門家が連携し「法務主任者資格」を創設

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弁護士による模擬法廷(2月9日、東京セミナー、労働新聞社提供)

産保法研の主な活動内容として、①メンタルヘルス法務主任者資格制度(民間資格)の運営、②個別企業を対象としたメンタルヘルス不調者への対応・支援事業がある。

前者については、「メンタルヘルス法務主任者資格講座」を創設。延べ48時間を受講するカリキュラムを設けた。講師には三柴教授のほか、宮岡等・北里大学精神科講座教授、生越照幸弁護士(労働法)、産保法研で専務理事を務める天野常彦・天野メンタルコンサルティング代表(元オリンパスソフトウェアテクノロジー社長)など、各分野の専門家が名前を連ねており、労働関連法規や精神疾患に関する知識を得るとともに、想定事例を用いたディベートなどを通じて実務についても理解を深めることができる内容になっている。

「切り捨て」でなく「切り分け」を

産保法研の事業に対する関心の高さは、2月9日に東京・新宿で開催されたセミナーの盛況ぶりからもうかがい知ることができる。この日の参加者は113人にのぼり、企業および労働者側弁護士による「模擬法廷」が関心を集めた。また、天野専務理事が経営者としての自らの経験を元に「メンタルヘルスサポートは会社を変える」と題した講演を行い、働きやすい職場作りへの改革の必要性について語った。

これまでの日本企業のメンタルヘルス対応のあり方に疑問を抱く三柴教授は、「メンタルヘルス問題を抱えている社員については(組織からの)『切り捨て』ではなく、『切り分け』(問題の所在を踏まえたうえでの適切な対応や支援)が必要だ」と指摘する。そのためにも「多くの専門職が法律的知識を軸に連携するとともに、法律を理解する人材の育成が急務だ」(三柴教授)とする。さらに、福祉的な対応の必要性を踏まえ、うつ病に罹患した労働者や離職者の支援のために社会福祉法人と連携した事業も検討している。

折しも厚生労働省は、職場でのメンタルヘルス不調者への対応強化を目的とした労働安全衛生法の改正を進めようとしている。産保法研の取り組みはあくまで自主的なものだが、適切な対応ができる専門職を養成するという点で社会的意義が大きい。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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