3つの「選択ミス」が日本を戦争へと走らせた 一番の大きな曲がり角はリットン報告書

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──近年の中国にも似たことがいえるようですね。

今も米国、英国、ロシア、中国ほか、あらゆる国にはそれぞれの憲法原理がある。そして、これは譲れないとそれぞれの憲法原理を世界に発信している。その中で中国に、その憲法原理は認められないと、世界からじわじわとシグナルが送られ始めている。10年間をかけて日本はどうするかを問われ、うまく対応できなかった。今、中国もベトナムに問われ、フィリピンに問われ、米国や日本にも問われ、そのような状況が積み重なり始めた。

国家の利害を代表する当事者たちの舞台裏

──この本は同時に世界史の中の日本政治経済史になっていますね。

1930年代の歴史は政治経済が軸で展開する。日本において世界史の一角で国家の利害を代表する当事者が、死活的に命を削って交渉に励む姿が見えてくるだけではない。米国に資産を押さえられる前に横浜正金銀行にある日本円をいち早く下ろしていたとか、禁輸前に米国の国務省から揮発油の「輸入許可手形」をもぎ取るとか、あるいは交渉時に日本は米国の通信暗号を9割方解読していたとか、「切り結ぶ」舞台裏のエピソードに事欠かない。

『戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗』朝日出版社

──正統派の歴史書?

若い人の中にいる「日本を愛したい、でも悪いことをやったというのでは愛せない」と言う人たちに伝えたい。確かに大きな失敗をして、失敗からのリカバリーも本当に大きな負担となった。この三つの交渉事の結果、日米戦争が起き、ドイツと米国の戦争も起こり、アジア、太平洋が日本軍の占領下に置かれて、世界がくまなく戦場になった。そういう大きな戦争を世界でつなげることをやった国だが、その後71年間頑張って文化的なコンテンツも含め幸せだと外からうらやまれる国になった。だから、愛していい国だと教えてあげたい。

現在、真面目な歴史書が自虐史観やお花畑状態などといわれることもある。実証的に支持されないことを言っていれば職を失う立場にある人間が、まじめに書いているから安心といわれながら、「学説知」と「世間学問知」の間を信頼感で埋める役割を担えればいいと考えている。

塚田 紀史 東洋経済 記者

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つかだ のりふみ / Norifumi Tsukada

電気機器、金属製品などの業界を担当

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