異動・退職するとき考えたい「引き際の美学」 自分を守りつつ、次につながる去り方を

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私が会社員時代に部下のマネジメントを担当していたときも、「困った!」としか言いようのない退職を告げられた経験はあります。偉そうなことを言っていますが、私自身も、あなたの会社の人たちと同様に、「なんとか翻意してもらえないか」「被害が最小限になるように体制を整えるまで慰留できないか」と考えたものでした。もちろん退職の理由次第ではありましたが、離れていく人よりもここにある組織や人の利害を優先して考えてしまっていたと思います。実際に、数カ月、退職時期を延ばしてもらったこともあるし、退職する人の都合に合わせた勤務形態を容認して、慰留したこともあります。

「来月から次で働くので、今月末で辞めます」といったことを言われた経験は私はありませんが、もしあったとしたら、やっぱり納得のいかない気分にもなったのではと思います。のっぴきない理由でなければ、組織としてはランディング期間が必要だ、2、3カ月の余裕が欲しい、と当然のように思ったことでしょう。そんな身勝手な組織の論理も理解しているあなただからこそ、「前向きに最後まで頑張りたい」なんて殊勝なことを言ってくれるのです。でもそれに付け込まれてはいけませんよ。あなたの場合は、ちゃんと「のっぴきならない理由」があるんですから。

仲間の引き際というのは印象的なもの

変に後ろ髪をひかれる気分にならずに、とっとと退職しちゃいなさい、会社より自分を大切にしなさい、としつこく言い続けてしまっていますが、それでも退職する人たちをたくさん見送ってきて、自身も退職した経験がある私には別の思いも強くあります。それは、言い古されたことではあるけれど、「終わりよければすべてよし」ということです。

「会社の辞め方」には、本当に人柄がよく表れるなぁと思うのです。「もう退職するんだからいいや」と思っていることがありありと伝わってくる人もたくさんいるし、「ホントに退職予定でしたっけ?」というくらいこれまでと変わらずに仕事に打ち込む人も、「辞める前にもうひと踏ん張りしてみせる」とラストスパートとも思えるような頑張りや成果を見せてくれる人もいます。

残る人にとっては、これまでの仲間の引き際というのは印象的なもので、辞めるとなった途端に、冷淡になる人や次のことで頭がいっぱいの人を見ると、同じようにその人に対しても冷淡な気持ちになっていくものでもあります。私自身は21年勤めた会社を退職するとき、最後まで全力でやりきって気持ちよく組織を立ち去ろう、という思いはどこかで萎えてしまっていました。だから、邪魔にならないように、目立たないように、そっといなくなってしまいたいという気持ちでいたような気がします。

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