「原発推進派」と批判されても、貫くべき「義」 経産省政務官として経験した「原発問題」

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問題は、仮に再稼働の決断をした場合に『ごめんなさい。福井県との調整がまだできていません』ということでは、話になりません。したがって、萎縮している事務方に対し、福井県の6月議会ではなく、前倒しして2月議会に間に合わせる方向で、準備を進めるように指示してよろしいでしょうか」と諮りました。

大臣はその方向で即断してくれました。それを受けて、私はすぐ事務方に指示をしました。その後、事務方も一生懸命その方向で、福井県の議会や行政との調整を大車輪で進めてくれました。

しかし、結果は、こうした努力をしても、結局、国民的議論が沸騰する中で、夏のピークにぎりぎり間に合う時期に、ようやく再稼働にたどり着いたのです。当初の6月議会の日程のままだったら、おそらくは電力不足のまま夏に突入していたでしょう。

地元や記者からの激しい批判

こうして、私は、自分が思うところの「義」を明らかにして行動をしました。が、自分の思いとは裏腹に、地元からも、記者からも、さまざまな団体からも、いや、党内からも「原発推進派」という激しい批判にさらされました。

しょせん大臣ではない立場ですから、その重圧は大したことがなかったと思います。しかし、そうはいっても、私の選挙区の一部が大飯原発から30キロ範囲内に入ることを考えると、とりわけ地元からの批判は重たかったのです。地元の夏祭りで、浴衣を着た20歳前後の女性に「再稼働を止めてください。私の母は、あなたを(放射能による)子供殺しと言っています」と叫ばれることさえありました。

損得だけを考えると、無難にこなせばいい話でした。それこそ、政務官の立場ですから、大臣の影の下で、「自分には決定権はない」と静観をすることもできたのかもしれません。

しかし、私は、山田方谷の「理財論」のいう「義」を通さなければ、さまざまな場面でぐらつくこともあると思い、自分の信ずるところを進みました。そして、いったん決心すると、心がおのずと透き通り、力が湧いてくるのを覚えました。

これはあくまで私個人の「義」の一例にすぎません。

ひるがえって、日本の国家の「義」とは何か。日本として「義を明らかにする」には、あまりにも国論が分裂をしている気がします。私たちは、国家の方針をはじめ、日本人としての価値観の共通の軸を失ってしまっているように思えてなりません。

どんな困難にもぶれない国家国民は、正しい精神論をもたなければなりません。日本の「義」を明らかにするためにも、早急に国民全体で共有できるような「国家の物語」を回復する必要があります。

北神 圭朗 前 衆議院議員/首相補佐官

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きたがみ けいろう

1967年生まれ。生後9ヶ月、父親の仕事の関係で渡米(ロサンゼルス)。 米国サーバイト高校卒業後、帰国し、京都大学法学部に入学。1992年、大蔵省入省、主税局総務課主任・係長、総理秘書官補、金融企画局総務課課長補佐、金融庁監督部保険課課長補佐などを歴任。2002年、財務省に辞め、民主党候補として出馬するも、次点で敗北。2005年に初当選し、2009年に再選。野田内閣で経済産業大臣政務官、内閣総理大臣補佐官などを務める。2012年の選挙にて次点で敗れる。World Economic Forum(ダボス会議)「Young Global Leader 2007」選出
 

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