苦戦続きのドコモ、「両刃の剣」の新戦略
他社回線ユーザーにもサービスを開放

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開放戦略のカギを握るのが「ドコモ会員構想」だ。これまでは各コンテンツサービスを電話番号とひも付けしてきたが、契約者の認証などに使われる「ドコモID」に切り替え、これを新たにドコモ会員とする。他社回線の契約者であっても、ドコモ会員としてID登録すればサービスを利用できるようにしていく。

こうすれば、ドコモが取り扱っていないアイフォーンなどからでも、ドコモのコンテンツサービスを利用可能になる。実は、3月に発売した独自タブレット「dtab」は回線にこだわらない姿勢を明確にした象徴的な端末だ。ドコモ回線の契約者向けの端末だが、あくまでWi-Fi専用。「社内では回線契約がないのに何の利益があるのか、という強い反対の声もあった」(マーケティング部・武岡雅則プロダクト戦略担当課長)。しかし、コンテンツの売り上げを伸ばしていく開放戦略へと舵を切った。

顧客流出加速のリスク

一方で、大きなリスクもある。ドコモのコンテンツをドコモ回線以外でも楽しめるようになれば、安心して他社へ乗り換えるユーザーも現れるだろう。ドコモはただでさえau、ソフトバンクへの流出が進み、MNP(番号持ち運び制度)による流出は1月に14万4700件、2月も9万3200件と厳しい。この流れが加速するかもしれない。

もちろん、ドコモはこのリスクも認識している。「価格面やサービス内容で、他社ユーザーよりドコモの回線ユーザーを優遇する仕組みを考えている」(スマートコミュニケーションサービス部・斎藤剛担当部長)。

開放戦略によりドコモが見据えるのは国内市場だけではない。近年では、海外のコンテンツ配信事業者である独ネットモバイル、伊ボンジョルノを買収するなど、海外展開の本格化も視野に入れる。

情報通信総合研究所の岸田重行主任研究員は「他社ユーザーに開放することで、顧客流出などの懸念はある。だが、コンテンツ業者は、潜在顧客が増えるため、dマーケットを重視するようになる。それがドコモにもプラスになるはず」とメリットを指摘する。

過去、独自コンテンツを集めた「iモード」で顧客を自社の回線へ囲い込むモデルを成功させたドコモ。他社に先んじる今回の開放戦略は、はたして吉と出るだろうか。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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