宇宙飛行士の”教官”の「伝える技術」 美人インストラクターが、NASAに表彰されるまで

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そのときは1時間で回復し、本番を無事乗り切ったが、その後も試行錯誤は続く。知識も経験も足りず、訓練でうまく対応できずに訓練終了後にかげで泣いたこともあった。

訓練後、宇宙飛行士たちに訓練内容についてのアンケートに答えてもらうが、「いい訓練だった」といううれしい評価もあれば、「あの内容はいらなかった」「質がイマイチ」という厳しい意見もあった。醍醐がつらかったのは、相手の要望を把握しきれていなかったときだ。

宇宙飛行士たちから信頼を勝ち取るのは容易ではない(出典:JAXA)

「この人が求めているのはここだろうと思って訓練したのに、アンケートを見るとかみ合っていなかった。訓練途中で言ってくれればいいが、言わない人もいます。反応がおかしいなと思いながら見抜けなかった、こちらにも責任がある。そんなときは悔しい気持ちになります」

宇宙飛行士は頭脳明晰で「1言えば10わかる」人がほとんどだ。それだけに、かゆくて手が届かないポイントを把握することが肝となる。醍醐は悔しい気持ちをバネに経験を積み、徐々に相手の求めるポイントをつかんでいく。

責任感の強い醍醐は、2008年夏、「きぼう」打ち上げ直前に組み立て作業を担当する星出彰彦飛行士を追いかけてヒューストンに飛んだこともあった。最終的な組み立てプランやトラブル対策について、ギリギリまで訓練を行うためだ。必死だった。それらの苦労を宇宙飛行士たちはちゃんと評価してシルバー・スヌーピー賞が贈られた。「宇宙飛行士がそんなふうに見ていてくれたとは思わず、涙が出るほどうれしかった」(醍醐)。

訓練手法はNASAとロシアで対照的だと言われる。NASAはまず実物に触り、操作をしてみて知識を習得する「タスク重視型」の訓練方式。一方、ロシアは先に技術的知識を深く習得した後で操作をする「知識重視型」。日本はというと、相手に合わせてカスタマイズすることから、各国の宇宙飛行士の評判がいい。

しかし、ISSに滞在する宇宙飛行士の訓練は、できるだけ効率化することが求められている。日本を含め世界の宇宙飛行士が最も時間を割くのは米国とロシアでの訓練であり数カ月単位で行われる。

一方、日本での訓練は2週間×3回で計6週間。その間に宇宙実験や緊急対応訓練など多くの項目を課さなければならない。宇宙飛行士はすべての項目を覚えていられるのだろうか?

「忘れてもいい」が、思い出せる仕掛けを

「忘れてもいいんです」と醍醐はあっけらかんと言う。何年も前にやった訓練を覚えていられるはずがないからだ。

「忘れてもいいけれど、必要なときに引き出せないといけない。火災や空気漏れなどの緊急時に現場に立ったときに『あれ、これマズイよね』と思い出せるようにするんです」

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