新登場の「人身事故保険」は鉄道会社を救うか 事故が多発する現状では保険料は高止まり?

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今年6月、宮古市で発生した鉄道人身事故(写真:記者撮影)

鉄道の人身事故が起きた際に、鉄道事業者の損失を補償する保険商品が新たに登場した。東京海上日動火災保険が今年9月から売り出した「鉄道施設災害費用保険」がそれだ。

補償内容は、車両や施設の修理費、乗客の運賃の払い戻しや代替輸送費用などだ。基本的には人身事故に限定した保険だが、「鉄道事業者からのニーズに基づき、オーダーメイドで設計する」(東京海上日動火災)という。保険金額の上限は最大10億円になる。

鉄道事故の損害は数億円単位にも

自動車側の過失により踏切などで列車と衝突事故が起きた場合、自動車運転者が加入している自動車保険で損害をカバーできることも少なくない。車両の修理費用は対物賠償から、電車に乗っている人がケガをした場合は対人賠償で補償される。

「最近、自動車と列車の衝突事故がたて続けに起きて、列車の修理費用が数千万円単位にのぼった」と、ひたちなか海浜鉄道の吉田千秋社長は明かす。幸いなことに修理費用は事故を起こした人が加入していた自動車保険でカバーされた。「もし自動車保険が使えなかったら、当社の規模で数千万円は経営上の大損害になる」と吉田社長は言う。

損保ジャパン日本興亜のホームページによれば、「電車1両分の廃車費用、残り3両分の修理費として約9000万円、復旧に要した人件費、代行輸送料他として約2000万円、合計で約1億1000万円」の損害を裁判所が認めたケースがある。また、「総額で2億円を超える損害賠償の認定例がある」という。

では、人身事故によって生じた費用の場合はどうか。こちらは少し事情が異なる。本来なら自動車事故と同様、鉄道事業者が人身事故を起こした本人やその遺族に損害賠償を請求する。ただ、「事案によって内容が異なるので、詳細は差し控えたい」(京浜急行電鉄)など、鉄道事業者の口は重い。自動車事故と違って保険でカバーできないケースもあり、遺族の感情や経済的な事情などを鑑みて請求しないことも少なくないようだ。

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