非製造業より儲かっていない日本のメーカー リーマンショック以降、回復が遅れる製造業の利益率

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製造業の利益率低下は売上増で挽回できない

製造業の中でも、業種によってかなりの差がある。

鉄鋼業の利益率は、図に示したように、きわめて大きな変動を経験している。すなわち04年から07年の初めまでは、10%を超える水準であった。それが経済危機後にはマイナス8.1%にまで低下した。その後回復して4%程度になった。しかし、10年1~3月期がピークであり、それ以降低下を続けている。12年には、ほぼゼロ、ないしマイナスの水準だ。

図には示していないが、製造業のその他の業種における利益率の値を、経済危機前と12年10~12月期について示すと、次のとおりだ。自動車・同附属品製造業では、4~5%程度から1.5%に低下。石油製品・石炭製品製造業では、2~4%程度から1.8%に低下。生産用機械器具製造業では、4~7%程度から1.8%に低下。電気機械器具製造業では、3~5%程度から2.1%に低下。

このように、業種によって水準に差があるが、経済危機前の2分の1、あるいはそれ以下に低下しているという点では同じである。

このような利益率の低下を、売上高増で挽回し、経済危機前と同額の営業利益を確保するには、売上が2倍以上に増加しなければならない。しかし、現実には、売上高は経済危機前に比べて1割以上減少しているのだ。

こうした状況を背景として、工場閉鎖や事業分野からの撤退が続いている。岐阜県美濃加茂市のソニー工場閉鎖をはじめとして、パナソニック、シャープ、富士通、TDKなどの国内工場閉鎖・縮小が相次いでいる。また、新日鉄住金は、君津製鉄所の高炉1基を休止し、鹿島製鉄所などの生産ラインも休止することを検討中と報道された。住友化学は、千葉コンビナートのエチレン工場の停止を検討していると報じられた。利益率低下の状況を見れば、こうした事態に立ち至るのも止むをえないと理解される。

こうした状況にもかかわらず、株価だけが上昇し、リーマンショック前の水準を回復した。これは、理解できない現象だ。

とりわけ、営業利益率がほぼゼロ水準まで低下している鉄鋼関連企業の株価が、昨年秋から4割以上も上昇しているのは、まったく理解できない現象である。

週刊東洋経済2013年3月30日号

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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