新日鉄が牽引する3社連合に温度差

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「和歌山問題」の十字架 神鋼と微妙な距離感

 今でこそ「パイプの住金」の一大生産拠点として名をはせる和歌山製鉄所だが、10年ほど前までは設備過剰に悩むお荷物工場だった。1990年代後半には原油安による油田開発の停滞から、油井管などに使われるシームレスパイプが低迷。99年には106万トンの年産能力に対し、生産実績は63万トンと稼働率が60%を割り込んだ。鋼板も需要低迷と値崩れに苦戦。和歌山の低迷は住金全体の業績に影響を及ぼし、98年度から2年連続で600億円を超える経常赤字を計上した。

 2000年代に入り、住金は和歌山の抜本的な改革に乗り出した。和歌山の鋼板ラインを休止し、シームレスに特化した。同時に、上工程の生産を中国鋼鉄(台湾)との合弁事業とし、年間180万トンの半製品を台湾に供給する契約を締結。05年からは、新日鉄と神鋼に対しても半製品供給を開始。鋼板ライン休止で余剰が生まれた半製品を外販することにより操業度の維持を図った。

 その後、シームレスの需要は大幅に回復。鋼板を抜いて、住金の稼ぎ頭へと成長を遂げた。もっとも、高炉はフル生産状態だが、操業度維持のため半製品の外販に頼る危ういバランスは解消されないままだ。そうした中、今回70万トン増産の決断に踏み切ったわけだが、そのほとんどは新日鉄への供給とみられる。住金グループ関係者は、こう口にする。「仮に鉄鋼需要が悪化すれば、真っ先に切られるのは(新日鉄向けの)半製品。“パイプとの心中”は“新日鉄との心中”も意味するようになる」。

 功罪があるとはいえ、依存度が強まる新日鉄と住金に比べ、2社と神鋼間では温度差が生じている。

 まず、海外展開をめぐる意見が食い違っている。ある住金幹部は個人的見解と前置きしながらも、「3社で海外に高炉を建てて、各社それぞれが得意な製品を生産することも考えている」と、海外共同進出プランに言及。新日鉄幹部も、傘下のウジミナス(ブラジル)が今年8月に発表した1兆円の増強計画に触れて、「ウジミナスの増強も、そういうこと(海外共同高炉)を念頭に置いている」と明かす。だが、神鋼の犬伏A夫社長は、「新日鉄とは一部製品が競合する。海外に出るとしても、現地のパートナーと組む形」と、2社とは異なるイメージを描く。

 そもそも新日鉄と住金に比べ、新日鉄と神鋼の提携は見劣り感が否めない。ステンレスや建材土木の合弁事業、住金へのシームレス集約など着実に成果を上げている前者に対し、後者は鋼材加工での提携が目立つ程度。新日鉄幹部は重要なパートナーと断ったうえで、「神鋼とはうまく合わせづらい」と本音を漏らす。

 ある外資系証券アナリストは、「ポートフォリオ的には、特殊鋼に強みを持つ神鋼はJFEと一緒になるのがベスト」と分析する。新日鉄と住金の蜜月度が増す中、両社と神鋼との温度差が広がれば、JFEと神鋼が握手をする可能性も完全には否定できないというわけだ。

 新日鉄が牽引する3社連合だが、不協和音がつきまとう。3社が憂うべきは、ミタルからの外圧だけではなさそうだ。

(書き手:猪澤顕明)

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