55歳元金融屋が貧困生活に転落した深刻理由 貯金ゼロ、年収は800万円から280万円に

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リョウタさんいわく、「派遣労働者はすきあらばさぼろうとするのに、待遇や仕事の内容に文句ばかり言う」「無理筋の契約を取ってきては、後になって迷惑をかける」「派遣先は時給2000円分も払っているのに、その分の技術や努力が足りない」。

確かに、派遣労働者もピンキリではあるだろう。しかし、ノルマに追い立てられ続けてきたリョウタさんが「無理筋な契約」と言うのは天に唾する物言いにも見えたし、時給2000円のうち派遣労働者が実際に手にするのはその半分ほどで、残りは派遣会社の取り分である。責められるべきは、中間搾取をしている派遣会社であり、そのような仕組みを許した社会なのではないか。

搾取される者同士が、互いに奪い合い、糾弾し合う――。派遣会社だけではない。リョウタさんの来し方から、そんなやりきれない光景が見えた気がしたのだ。

ノルマの果てにたどり着いたのは……

リョウタさんのコンビニ日払いバイト代

再び、夜間のコンビニエンスストア。

「いらっしゃいませ、こんばんわー」「こちらのレジへどうぞ!」

「体育会気質」らしい、リョウタさんのひときわ大きな声が聞こえてくる。大学はスポーツ推薦で入学したと話していたことを思い出し、あらためて納得した。

一部のコンビニでは、バイトにもお中元・お歳暮ギフトやクリスマスケーキなどのノルマがあるといわれるが、ここでは店長の裁量で一切のプレッシャーはないという。もともとの売り上げが良好なのだろう。駅前にある店舗は立地がよく、夜間になってもひっきりなしに、通勤帰りの会社員や外国人観光客が訪れる。ごくたまに客足が途絶えると、カウンターの内側でリョウタさんが息子ほど年の離れた大学生や外国人留学生といった同僚たちと和やかに談笑している。

ノルマの果てにたどり着いたコンビニのレジ打ちバイト。リョウタさんは「僕は金融屋」と繰り返しながらも、一方でこうも言うのだ。

「ノルマがない今の職場がいちばん、楽しい」

藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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