「少子化の元凶」は本当に晩婚晩産化なのか 生物学的な面ばかり見ていても答えはない

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初婚年齢や初産年齢が上昇しつつも少子化の大きな流れに歯止めをかけられたスウェーデンも、女性の社会参加が大きい国のひとつであり、同出生率は1.91です。さらにイギリスでは、先月、40代の出産数が20代の出産数を上回るという衝撃的なニュースもありました。そのイギリスも合計特殊出生率は1.83と日本を大きく上回る国のひとつです。

いずれの国を例にとってみても、晩産傾向が一概に出生率の伸びを阻んでいるとはいえないことがわかります。

「適齢期」とはなんぞや

日本を例にとると現在の妊産婦死亡率は1970年代の7分の1に減少、赤ちゃんの周産期死亡率も5分の1以下となりました。ここ数年をとっても、周産期死亡率はさらに改善していますし、たとえば「丸高」と言われていた35歳以上の妊産婦死亡率も、現在では1970年代の20歳代の死亡率とほぼ変わらないほどに改善していると言います。「医療の進歩には目を見張るものがあり、『出産適齢期がいつか』自体について議論が分かれるほどになっている」と産婦人科の先生方に伺いました。

生物学的には、適齢出産が母子にとって「安全」なことに変わりはありません。「適齢期」に関する知識の啓蒙は続けていかねばなりません。ただ、経済的にも、精神的にも、キャリア形成の面でも安定した時期に出産が可能になった場合にこそ女性はもっとも産みやすいのではないか、ということが、海外の先行例からも見えてきます。「適齢期を過ぎた出産は危険」といたずらに恐怖心をあおることは、むしろ少子化対策とは逆行し、産める人が産まないという決断につながりかねない、もったいない話だと思います。

多産へのインセンティブや育児世代の負担軽減などの税制面の改正、保育園を中心とするインフラの整備、働き方改革など、国や自治体、企業の単位ですべきことはまだまだあります。ただ、個人の単位でも、これまでの出産育児の社会通念にとらわれずにチャレンジすること、周囲はそんな子育て世代を支援することが必要だと思われます。

「産みたい人が、産める時に、産み続けられること」。周囲がそんな選択を応援して子育てを助けてあげられることこそが、少子化克服の第一歩といえそうです。

竹内 明日香 一般社団法人 アルバ・エデュ 代表理事

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たけうち あすか / Aska Takeuchi

東京大学法学部卒業。日本興業銀行(現みずほ銀行)にて国際営業や審査等に従事後、独立し海外投資家向け情報発信や日系企業のプレゼン支援を提供して今日に至る。2014年、子どもの「話す力」の向上を目指す一般社団法人アルバ・エデュを設立。法人向けに培ったメソッドを応用し、公教育にアクティブラーニングの授業やカリキュラムを導入、教員研修も提供している。受講者数は5万5000人以上。著書に『すべての子どもに「話す力」を――1人ひとりの未来をひらく「イイタイコト」の見つけ方』、『99%の小学生は気づいていない!? 思いを伝える「話す力」』など。

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