日本は調査捕鯨を続けることができるのか シーシェパードとの合意は「空手形」?

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日本鯨類研究所の藤瀬良弘理事長は「完全に解決するとは思っていない」と慎重な姿勢を崩さない。

というのも、今回の調停合意が効力を及ぼすのは米国のシーシェパードとワトソン氏に対してのみであって、その他の国のシーシェパードの団体には影響しないことになっている。

米国以外のすべての組織が日本への抗議を継続

実際にシーシェパード・オーストラリアの幹部であるジェフ・ハンセン氏は、英ガーディアン紙の取材に対して「オーストラリアでは鯨の保護区で虐殺を禁止する連邦裁判所の判決が有効だ。米国の裁判所の合意はオーストラリアの法律には影響しないため、我々はこれに従うつもりはない」と明言。米国、オーストラリアに次ぐオランダのシーシェパード・グローバルで広報を担当するヘザー・スティムラー氏も、米国以外のすべての組織が日本の“違法捕鯨”に抗議を続けると述べている。

こうした状況をワトソン氏自身が予期して準備していたのだろうと、藤瀬理事長は推測する。

「日本が2011年に米国連邦地裁に提訴した頃から、ワトソン氏はシーシェパードを本部組織から一般組織に格下げし、他の各支部を独立させるようになったのです。米国で敗訴しても、他の団体が自由に活動できるようにするためです」

その事実は資金の動きが示している。シーシェパードの本部機能をもっていたシーシェパードの集金力はずば抜けており、2012年には明らかにされた金額だけでも1267万7344ドルもの寄付を集めている。これが世界中のシーシェパードの支部に配分されていたわけだが、各団体が独立すれば独自の資金力も持つようになり、シーシェパードからの寄付が断ち切られても活動が可能になる。

実際にシーシェパード・グローバルは、2015年1月にオランダの宝くじ団体から830万ユーロの寄付を受け、これで最新鋭の攻撃船を建造することを発表した。同団体は2007年からシーシェパードに総額1550万ユーロも寄付しており、有力なスポンサーになっていた。

なおシーシェパード・グローバルのCEOであるアレックス・コーネリーゼン氏は、ワトソン氏とともに2003年に太地町でイルカ漁の網を切って15頭のイルカを解放し、威力業務妨害容疑で和歌山県警に逮捕された経歴を持つ。またボブ・バーカー号の船長として、南極海で日本の調査捕鯨船を激しく攻撃したこともある。

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