国際物流総合展

経営において物流の重要性が増している

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物流・ロジスティクスに関するアジア最大級の展示会「国際物流総合展2016」が9月13~16日、東京ビッグサイトで開催される。12回目となる今回のテーマは「物流展で見つけよう~課題解決のネクストステップ~」で、約450社の展示企業、約13万5000人の入場者を見込み、高い関心をうかがわせている。その物流の最近の潮流について、日本物流学会会長で一橋大学大学院商学研究科教授の根本敏則氏に聞いた。

コストとスピードの最適バランスへ

――企業が、物流に対して高い関心を寄せるようになっている背景には、何があるのでしょうか。

一橋大学
大学院商学研究科 教授
根本 敏則
Profile
1981年、東京工業大学 理工学研究科博士課程修了。一橋大学商学部教授、ブリティッシュコロンビア大学交通研究センター客員研究員等を歴任。2001年から現職。2015年から日本物流学会 会長

根本 グローバル化に伴い、日系メーカーが、アジア新興国をはじめとする海外進出を加速させたことで、部品製造と製品組み立てを別々の国で行うばかりか、部品の種類ごとでも製造する国が異なるという、工程間分業が進みました。そのため、サプライチェーンネットワークは広域化・複雑化していますが、これは物流を効率化するチャンスが広がっていることを意味しています。比較的安価だが時間がかかる船便、高コストだが速い航空便、東南アジア諸国間でも整備されつつある国際道路網によって拡大するトラック便――という陸海空の貨物輸送手段を組み合わせ、用途に応じてコストとスピードを最適なバランスにすることで、企業は生産工程全体でのコスト削減ができます。物流戦略は、企業経営の観点から、その重要性を増していると言えるでしょう。

――サプライチェーンに対しては、在庫を最小化しようという圧力も高まっています。

根本 効率的な輸送と並んで、適切な在庫管理は、物流戦略上の重要なポイントです。BtoCの通販などでは、注文頻度の高い商品は、都市部の物流センターに在庫を置き即日配送に対応できるように輸送距離を短縮して、頻度の低い商品は輸送距離が伸びても保管コストが低い地方の大規模センターに在庫を置くことで、高水準のサービスを低コストで実現しようとしています。一方、メーカーは、これまでも生産コスト削減のために、在庫極小化を追求してきましたが、グローバル化されたサプライチェーンの中で、目標を達成するには、より高度な物流が必要となっています。

人手不足対策は共同化による労働生産性向上

――東日本大震災、熊本地震など相次ぐ大地震を受けて、サプライチェーンのBCP(事業継続計画)も注目されるようになりました。

根本 東日本大震災以降、BCPを策定する企業が増え、熊本地震では、事業継続に効果を上げたようです。災害で部品供給が停止した場合の備えとしては、代わりの仕入れ先や、部品の代替生産を行う工場を確保しておくなど、調達手段を多様化する必要があります。ただし、1次部品メーカーは多様化したものの、それらが部品材料を調達する2次部品メーカーが1社に集中してしまうこともあるので、上流にさかのぼってサプライチェーン全体を明らかにして、代替調達先を検討する必要があります。

――最近は、トラックのドライバー不足が喫緊の課題として浮上しています。

根本 人口減少期を迎え、物流の労働生産性を向上させる必要があります。国土交通省は、通行許可審査の対象とする長大トラック(フルトレーラー)の長さを21メートルから25メートルに緩和する方向で、試験走行を始めています。1台で運べる荷物が増えれば、運転手1人あたりの労働生産性が向上し、貨物交通量(トンキロ)あたりのCO2排出量も減少させることで環境負荷低減にもつながります。今春改正された物流総合効率化法は、従来の「施設整備」から、企業間の「連携」を後押しして、人手不足に対応する新たな方向に、政策を転換しました。1台のトラック、1編成の貨物列車を複数の会社でシェアする共同配送・輸送のほか、東京発大阪行き、大阪発東京行きのように起点と終点が逆となった2台のトラックの運転手が中間地点で交代し、中間地点から起点に折り返すことで、日帰りを可能にする中継輸送の仕組みも検討。労働環境を改善し、ドライバーを確保しやすくする試みが進んでいます。

新たな物流サービスで付加価値を生み出す

――物流事業者は、単純に運ぶだけでなく、さまざまなサービスを展開しています。

根本 「効率=仕事の価値/投入労働量」とすると、効率アップには、労働量を減らす工夫だけでなく、付加価値を創出することが大切です。東南アジアで使われている日系メーカー製機械の修理用補給部品を、貨物便ネットワークのハブ空港で在庫管理。故障時のニーズに応じて各主要都市向けの定期航空便で配送するシステムを構築することで、各国に在庫を置くよりもトータルコストを削減した物流事業者のサービスは好例です。ITを使った物流サービスの充実も期待されている分野です。走行経路や速度変化などの走行データを収集し、運転手には渋滞情報などの形で還元する「ETC2.0」の導入が始まっていますが、IoT(モノのインターネット)でトラックがインターネットに常時つながるようになれば、過積載防止や道路の長寿命化に有効な仕組みが構築できるでしょう。

――物流には、まだまだ効率化や、新たな付加価値を生み出す余地があるのですね。

根本 大きな視点で見れば、製品を生産するための部品の移動から、完成品が使用され、廃棄されるまでのライフサイクルを通したモノの動き全体も、物流と考えることもできるでしょう。幅広い物流の領域には、さまざまな可能性が埋まっていると思います。

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