ハゲタカがTOB 遠のく西武の再上場 対立は泥沼化。サーベラスは強硬手段で打開図る

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中途半端なTOB

10月には修復不可能になった。正式な上場申請を前に証券会社が仮算定した1200~1500円のIPO価格に不満のサーベラスは、不採算路線の廃線やプロ野球球団の見直しといった経営改善案を書面で提案した。こうした計画を公表すれば2000~2500円の企業価値となる、と上場申請を取りやめるよう繰り返し要求。猛反発した西武が資本業務提携を一方的に解消し、10月末に正式な上場申請を行った。

その後、両者間を内容証明が飛び交う泥仕合に発展。当然、上場プロセスは止まったまま。膠着状況の打破に、サーベラスが採った戦略が今回のTOBとなる。だが、その有効性には首をかしげざるをえない。

個人株主が約13%を持つ西武の株主構成を考えると、現在の32.42%でも事実上、特別決議の拒否権行使に支障はない。そもそも上場申請中の西武が特別決議を必要とする経営判断を行うことはなく、36%へ引き上げる意味はほとんどない。経営陣が反発する中、取締役を送り込んだり、現経営陣を更迭するなら、5割超を取る必要がある。

メイン銀行のみずほコーポレート銀行を含め、今のところサーベラスへの視線は冷ややかだ。サーベラスの代理人を務める西村あさひ法律事務所の岩倉正和弁護士は「今、提案しているのは4%の買い増しと取締役の推薦だけで廃線などは要求していない。銀行などから理解を得られると期待している」と語る。

「われわれも上場は望んでいるが、今のガバナンスでは企業価値が上がらない」と別のサーベラス関係者は主張するが、ほかの大手私鉄と比べて営業利益率などで西武が劣るということはない。「公共交通機関として利用者の利便性を考えてほしい」と国土交通省はくぎを刺す。バリューアップは簡単ではない。

仮算定の上限とされる1500円ならば、買値の約1.6倍でしかないが、サーベラスは700億円を銀行借り入れで調達しレバレッジをかけているため、実質リターンは年率10%台と思われる。

結果論だが、12年末に上場していれば、アベノミクスによる株高で株価は上昇していた可能性が高い。無駄な争いで時間を空費するより、手を携えたほうが建設的なはずだ。

週刊東洋経済2013年3月23日号

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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