米当局が利上げにこだわる「重大な理由」 「イエレン講演」で見えた秋以降のシナリオ

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この時は実際に市場が動き出したのは9月になってからだ。当事最も有力なヘッジファンドだったデービット・テッパー氏が、CNBCで“中央銀行がこれから債券を買うとわざわざ表明しているのに、なぜみんな躊躇しているのか”と発言。ここが基点となり、株高は2015年まで続いた。

では、26日のイエレンのスピーチで見えてきたシナリオはなんだろうか。繰り返すが、イエレンは皆が期待した利上げの時期についての明確なヒントは避けた。ただ重要な示唆をしてくれている。

なぜ利上げは歓迎されるのか

利上げの時期は示さなかったが、イエレンが強調したのは、銀行がFEDに預けている当座預金への金利の重要性だ。筆者は事前にNY連銀のダドレー総裁が利上げを示唆したのは、ハト派としての予防的なタカ派ポーズではなく、筆者がメリーゴーランドとイカロスの神話で解説したように(「コラム『中央銀行バブル』は、いつ完全にはじけるか」を参照)、NY連銀の株主でもあるウォール街の要望を代弁したと考えている。

リーマンショック後、混乱のドサクサにまぎれて銀行免許を取得したゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーには、今や大量に預金が集まり始めている。ゴールドマンは、GS BANKとして、個人向けのセービング口座に1%の金利を付けている。

これまで一部の大金持ちだけを相手にしていたゴールドマンが、最低預金額を設定せず、一般からも預金を集めるなら、その信用力からしても大量の資金が集まるはずだ。しかし安定した運用先(金利)がなければ、このビジネスモデルは成り立たない。証券会社として相場の変動で儲けるにも、株も債券もここまで割高になっては、もはや危ない。

そこでもし利上げをすれば、FEDは銀行免許をもち、FEDに預金を預ける金融機関にその分の金利を余計に払うことになる。それは銀行免許を得たゴールドマンなど、金融機関にもありがたいことだ。もちろん旧来からの銀行であるJPモルガンやCITIも利上げは歓迎である(このあたり、筆者はマイナス金利を導入した後の日本の現状を参考にしている可能性を強く感じる)。

ここで、簡単に今の米国の利上げの仕組みを説明してみよう。これまで米国の利上げは(ボルカー議長以降)オーバーナイトの無担保市場(フェドファンド市場)への介入を指して来た。しかしリーマンショックで極端に流動性を増やしてしまったため、米国内の金融機関がフェドファンド市場で資金を調達するニーズは限りなく細ってしまった。

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