元トヨタマンが証言する「人づくりの極意」 トヨタが「デキの悪い部下」を見捨てないワケ

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「私は、とにかく彼の話を聞こうと思いました。本人がどう考えているか知りたいと思いましたし、部下の言うことは良きにつけ、悪しきにつけちゃんと聞こうという考えでしたから」

その後、中根は、反抗的な部下の話や言い分を聞く時間をつくることにしました。何度も彼の話に耳を傾け、忌憚(きたん)ない意見をぶつけるようになると、部下との関係も少しずつ変わっていったのです。

「ほかの人間だったら『お前の言うことなんか』と反発したでしょう。でも、話を聞いていくにつれて、『納得はいかないけど、中根が言うんならしょうがない』という態度に改まってきました。あとで考えてみると、いつもガタガタ文句を言っていた彼だから、誰も親身に話を聞いてあげないわけです。たとえ話しても相手に無視されるか、けんかになるかだったのでしょう。しかし、私はとりあえず彼の話を聞きました」

もちろん、話を聞いてすべてがわかりあえるわけではありません。しかし、トヨタには部下の言うことは良きにつけ悪しきにつけちゃんと聞こうという風潮があります。部下の言うことに耳を傾けることで、人と人とのつながりができ、職場の雰囲気も変わってきます。それがひいては、組織全体の成果をも大きく左右することになるのです。

扱いにくい「埋もれた部下」にはテーマを与えろ

次に、扱いにくいが仕事はできる部下についてみてみましょう。

元トヨタマン丹野正光の、工長時代のエピソードを紹介します。部下の中野(仮)は正論を振りかざすタイプで、「これは違う」と思ったら、上司だろうが、先輩だろうが、遠慮なくズバズバと言ってきます。言ってくることは正しいし仕事はできるほうですが、まわりからは煙たがられる存在だったのです。周囲の管理者層も「あいつは適当にやらせておけばいい」「あいつは自分本位なやつだ」と口をそろえて言っていたといいます。上からは何の関心ももたれない状況に置かれていたのです。

そこで丹野はある日、中野とじっくり話す機会を作ってみました。

「私のほうが2歳年上で、役職も上でしたから、最初は彼もちょっと奥歯にものがはさまったような話しぶりでしたね。『まあ、ざっくばらんに話そう』ということになりました」。

丹野は実際に話して、ほかの上司たちから聞いている話とはちょっと違う印象を持ったといいます。

「『俺なんか、いくら頑張っても、もう先は見えてる。いまさら話し合っても、頑張ってみても……』というのが、彼の本音だったように感じました。彼はいまの状況の中で、少しくさっていたのかもしれません」

特に丹野が驚いたのが、中野がものすごいアイデアをたくさん持っているということでした。

「勤続30年の間に蓄積した技能など、確かに能力があったんです。本当に実力があって、それを発揮できずにくすぶっている人は、何とかしないといけません。そうした人にはテーマを与えて伸ばしていく。そうでないと本人も気の毒だし、会社や職場にとっても大きな損失です」

丹野はこの話し合いののち、彼を工場内の生産準備チームへと異動させました。

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