「シン・ゴジラ」で戦う自衛隊はリアルなのか 白熱の戦いに登場する兵器を分析してみた

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大田区にゴジラが最初に上陸した際、政府は防衛出動と害獣駆除を併せた超法規的な措置をとった。これは現実的で合理的な判断といえるのだが、付近に住民が残されていることがわかり、陸自の攻撃ヘリは作戦を中断せざるをえなくなる。その後、ゴジラは一旦海中に姿を消してしまった。

わが国は人口の7割が都市部に集中しているため、都市での戦闘を行う場合、いかに国民(およびその財産)に対する副次被害を防ぐかを真剣に考えないといけない。また、1人の命を守るのか、国民全体を守るのか、という点では情緒的ではない厳しい判断を求められる。だが自衛隊は副次被害を防ぐ精密誘導兵器の導入がトルコなどの中進国からも大きく遅れている。後述するが映画では、図らずもその現実が見事に描かれていたといえるだろう。

その後、海上自衛隊は護衛艦や対潜ヘリを投入して海中に消えたゴジラの探索を行う。ところが見つけることができず、ゴジラは突然、相模湾に姿を現す。この点はややリアリティに欠けている。おそらくゴジラは海中を泳ぐか海底を歩いてきたはずだ。そうであれば、ソナーには何らかの反応はあるだろう。

なぜ水際で攻撃をしないのか

日本政府は水際防御を諦めて初めから内陸の多摩川沿いに防御線を敷いた。この作戦は、率直にいって正しいとはいえない。縦深の浅いわが国で、敵を内陸に呼び込む作戦は極めてリスキーだ。上陸による被害を最小化するためには、まず水際での攻撃が不可欠である。よしんば撃破が無理でもダメージを与えておけば内陸での攻撃による副次被害を最小限に止め、またとどめを刺せる可能性も大きくなる。ゴジラに通常兵器はほとんど効かないのだが、それは後になってわかる話であり、まずは水際で攻撃をしなければならない。

ゴジラが海岸付近に至ってからようやく探知できたとしても、自衛隊には多様な攻撃の手段がある。たとえば空自のF-2戦闘機による爆撃や、P-3CやP-1哨戒機による対艦ミサイル、護衛艦による艦砲射撃(射程16~24キロ)、対艦ミサイルによる攻撃は可能だ。また陸自も長射程(射程は公表されていないが、約170~180キロ)の88式地対艦誘導弾およびその後継の12式地対艦誘導弾などの対艦ミサイルを有している。

その他陸自の榴弾砲も射程が長い。劇中にも出てきた最新型の99式自走155ミリ榴弾砲の射程は約40キロだ。99式は川崎の防衛線に配備されており、この射程ならば東京湾はもちろん、小田原や南房総までがギリギリ射程に入る。またMLRS(多連装ロケットシステム)は射程70キロのGPS誘導ロケット弾を使って御殿場から多摩川沿いの防衛線のゴジラを攻撃している。当然ながら相模湾も射程に入っている。

なぜ水際でゴジラを攻撃しなかったのだろうか。それはズバリ上映時間の問題だろう。本作品の上映時間は2時間以内と決めており、その中で何度も見せ場の戦闘シーンを盛り込めなかったに違いない。過去のゴジラシリーズでも、見せ場は内陸での陸自部隊とゴジラの対決である。そこで、内陸部での決戦に見せ場を絞ったのだろう。

ただ、そもそも論でいえば、ゴジラの再上陸が関東という保証はなかった。極端な話、沖縄に上陸する可能性もあったはずだ。だが最初に東京に上陸したので、その近辺に再上陸する可能性は高く、また最重要な首都を守るために戦力を集中したようだ。作品中でも記者がそのような発言をしている。ただし中京地区や東北などにゴジラが上陸して破壊の限りを尽くしたら政権は世論の批判を浴びるだろう。一点張りをした首相には胆力があった、といえる。

次ページ多摩川での決戦を分析すると・・・
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