米国に「9月の利上げ」を遅らせる理由はない イエレン議長講演は強引に解釈されるだろう

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しかし、今回の現実は投資家に支配される可能性があるものだ。すなわち、市場が荒れればFEDは利上げを行いにくい。ゼロ金利解除が2015年の9月に行われなかったのは、原油暴落に伴う金融市場全般の混乱(中国発といわれていたが、真実は原油が理由)により、慎重を期して、ゼロ金利解除を見送ったからだった。そして、市場が落ち着いた12月に満を持して実施した。今回も、投資家たちはそれを狙って甘えている。

もちろん、FEDは利上げを急ぎはしない。市場が混乱して銀行に影響を与え、消費者に影響を与え、企業の投資を萎縮させていれば、とりあえず見送る。無理はしない。しかし、今回はまったく違う。投資家たちの都合以外、延期する要素、実体経済で心配するような大きな要素がないからだ。

イエレンが話す内容に良いサプライズを期待

今回最も難しいのは、投資家たちの都合とFEDの意図が大きく異なること(FEDは株式・為替市場のためにあるのではなく、実体経済のためにある)、しかし、投資家たちの都合を彼らが押しつけてくれば(市場を動かすことによって)、現実たるFEDの政策において、実施の時期を微調整してくる可能性はある。そして、その可能性があることに投資家たちが甘え、さらに、今回はその甘えが通じないことがわかったら、市場の混乱、乱高下をもたらすだろう。

つまり、投資家たちは自分の都合を押しつけることが出来ると思い込んでおり、そういう場合もあるのは事実であるが、そうでない場合もあり、今回はそれに当たる可能性がある。そのことが9月から12月にかけて世界の金融市場を動かし、相場の混乱、乱高下をもたらしていくだろう。

個人的な予想を言えば、利上げは9月にあると思う。米国実体経済は順調で、利上げを遅らせる理由がない。FEDとしては、今回のは利上げではなく金利「正常化」で、異常な低金利解消の第二歩にあたる。これを遅らせることはむしろマイナスという認識だろう。慎重に焦らずということでこれまで遅れてきただけだから、今回の機会を逃す理由はない。

私が最も関心があるのは、明日26日のイエレン議長の講演内容だ。深遠で斬新な話がどこまで出てくるか。新しい金融政策の考え方、フレームワーク誕生の一歩となるような内容があるか。そういう意味での良い「サプライズ」、イノベーションの萌芽が出てくることを期待している。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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