ハリウッドで痛感した獰猛なプラグマティズム 大友啓史監督に聞く(下)

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なぜ大友作品は「暗め」なのか

――暗めの映像は大友監督の特徴、という人がいます。それは、ハリウッドで培われてきたのでしょうか?

いえ。というよりも、もともとテレビドラマの、何の陰影もないベタ明かりの映像がすごく嫌だったから。リアリティがないし。そもそも照明というのは、光の当たっているところと当たっていないところを作って、陰影で奥行きを出すもの。フラットな2次元の中で、奥行きを出すのが映像の作業なのに、特に時代劇とか、お客さんに見えないところがないようにという理由で、奥行きを出さないでベタにしていくことに疑問があった。

全部平等に明るく見せるという、それはある範疇のお客さんのことを考えればいいのかもしれないが、それによって照明という技術が滅びてしまう。技術が滅びていくと、その世界に優秀な人は集まらない。照明をビカビカ当てればいいだけなら、3年ぐらいあれば全員できてしまう。

どう陰影を作るか、そこにプロフェッショナルなセンスが問われる。音響もそう。画像を伝送する過程で低音域と高音域がつぶれるから、テレビドラマは基本的にはセリフと感情をあおる劇伴(BGM)だけがはっきり聞こえればいいことになっている。細かい背景の音や、SE(効果音)を作ってもつぶれてしまう。セリフと音楽だけが届けばいいとなったら、技術的にはもう衰退していく業界になっていく。

(C)2013「プラチナデータ」製作委員会

優秀な人たちが集まるところ、人が面白いと思って集まるところには、いろんなチャレンジや方法論がないといけない。テレビの草創期は、何をどうしていいかわからないから、暗中模索でやっていた。しかし、それがノウハウになり、ルーチン作業になったとき、同時に熱が失われてしまう。その熱をどうテレビの現場に取り戻すか、『龍馬伝』では、1年かけてやってきた。伝わるのは熱だけ、幕末から生中継をやるぞっていうスタンスで作ったのが、『龍馬伝』の現場。でも、ダイナミックな映像も細かい音も、劇場の大スクリーンで、全身で浴びてもらえるのが映画。だから今、映像の作り手として、すごく幸せな環境で自分の仕事ができていると思う。『るろうに剣心』も『プラチナデータ』も、その発想で創っている。ぜひ劇場で、僕の映画を「体感」していただきたいですね。

宇都宮 徹 東洋経済 記者

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うつのみや とおる / Toru Utsunomiya

週刊東洋経済編集長補佐。1974年生まれ。1996年専修大学経済学部卒業。『会社四季報未上場版』編集部、決算短信の担当を経て『週刊東洋経済』編集部に。連載の編集担当から大学、マクロ経済、年末年始合併号(大予測号)などの特集を担当。記者としても農薬・肥料、鉄道、工作機械、人材業界などを担当する。会社四季報プロ500副編集長、就職四季報プラスワン編集長、週刊東洋経済副編集長などを経て、2023年4月から現職。

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