国連が定めた「難民救済策」は機能していない 新たな支援システムと日本の関与が必要だ

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ウガンダ北部アムル県の難民キャンプで暮らす南スーダンからの避難民たち。8月20日撮影(写真:ロイター/アフロ)

国連高等難民弁務官事務所(UNHCR)が毎年発表している年次報告書「GLOBAL TRENDS : FORCED DISPLACMENT IN 2015」(グローバルトレンド:2015年の強制移住者)によれば、2015年末時点で世界の強制移住者(難民、亡命申請者、国内避難民の合計)の数は6500万人を超過し、4年連続で過去最悪を更新した。

10年前の2005年末には世界の強制移住者の数は4000万人弱であった。わずか10年間で60%以上の増加をみたことになる。今や世界の113人に1人が強制移住の被害者なのだ。日本では日常的に議論されることは少ないが強制移住の問題は紛れもなく現在の世界が直面する国際問題である。

そして強制移住者6500万人の約3分の1にあたる2100万人は難民である。「難民」とは簡単にいえば、迫害や人権侵害、武力紛争などの危険から逃れるために国境を越えて他国に保護・安全を求めた人々である。

シリア難民は難民全体の一部に過ぎない

UNHCRの報告書からは現在の難民問題について三つの重要なポイントが浮かびあがってくる。一つ目は「世界の難民問題=シリア難民」ではない、ということだ。確かに現在のシリア難民の規模とその流出ペースは群を抜いていることは間違いない。2015年に新たに創出した難民の数でトップだったのは前年同様シリアで、昨年1年間だけで約100万人のシリア人が内戦により難民となった。

だが2位、3位にはアフリカ大陸のブルンジ、南スーダンが入っている。いずれも国内紛争の激化により昨年1年間で各々22万人、16万人以上が難民として隣国に亡命した。3位以下にはウクライナの15万人、中央アフリカ共和国の9万人、ナイジェリアの7万人、エリトリアの3万5000人が並ぶ。日本ではほとんど注目を浴びることのないアフリカの国々でも日々、何百、何千人という単位の人々が自国を追われて難民となっているのだ。

現在の国際社会の関心はシリアに注がれ、メディアの報道もシリア難民に偏りがちであるが、こうした難民の発生分布を見ると「世界の難民問題=シリア難民」という見方では視野狭窄に陥る。

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