あのDMMがチームラボに全力投資した理由 猪子寿之氏「もはや広告は人々に届かない」

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スマートフォンの普及で情報が爆発的に増加し、本当に伝え、受け取るべき情報が何かが容易に判別がつかない現代社会では、直接の「体験」こそが、ユーザーに確かな価値を感じさせる有効な方法だ。自分で感じたことや友人が薦めてくれたものを中心に、考えて行動していく今の人々には、マス向けの「よくできたフィクション」に気持ちを向ける時間はないのかもしれない。知名度のある有名人を起用して目を引こうとするPRは、限界が見え始めている。本当に人々の心に残り、他人と共有したいと思うものは、身体を通して得た、二度と帰ってこない「特別なリアル」の記憶だけ、といっていい。

最終日が近づいていることもあり、炎天下の中でも行列が絶えることはなかった。親子連れの姿も目出つ

野本氏は、「DMM以上に資金力を持つ企業は、たくさんある。今回我々がやったことが、他の会社への刺激となって欲しい。金額にしろ、成果物にしろ、『DMMなんかに負けてはいられない』と感じてもらえれば」と話す。莫大な広告予算を有するグローバル企業が本気を出せば、「よくできたフィクション」から「特別なリアル」への投資へ、大きな流れが生み出されるのではないだろうか。

これが、未来の「遊園地」の姿になる

デジタルテクノロジーの進化は、本来対極にあると考えられていたリアルの世界の価値の最大化を可能にする。今回の作品群も、その価値を伝えるのに、言語や地域性、文化の壁は存在しない。欧米や中国でも展示すれば、日本と同じ感動が横展開されていくことは、想像に難くない。

また、猪子氏は「今回のような展示物が30個揃えば、21世紀における新しいテーマパークのような存在になる可能性を秘めている」と語る。アートは本来、客観的に鑑賞するものだった。しかし、「体験」と融合していくことで、今度はエンターテイメントとの境界も曖昧になっていき、人々は受け身でなく、主体的にその世界の中に入り込んでいくことになる。これが、真に「この世あらざるもの」であれば、これまでになく、接触した人の心に深く刺さることになるだろう。企業の広告関連予算が、こうしたものに当たり前に投下されていく時代は、そう遠くないかもしれない。

「DMM.プラネッツArt by teamLab」は、デジタルアートの新しい可能性の片鱗を見せつつ、夏の終わりと共に、いったん物理的に姿を消す。

今回の展示で公開された新作、「人と共に踊る鯉によって描かれる水面のドローイング - Infinity」。裸足で水の中に入って鑑賞するインタラクティブアートは、来場者に強い印象を残した
関田 真也 東洋経済オンライン編集部

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せきた しんや / Shinya Sekita

慶應義塾大学法学部法律学科卒、一橋大学法科大学院修了。2015年より東洋経済オンライン編集部。2018年弁護士登録(東京弁護士会)

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