風光明媚!長距離特急「南風」に乗ってみた 4時間半で乗務員交替5回、無人駅にも停車

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しかし、近年は機構が簡単でコスト的に優位な空気ばね車体傾斜方式が増え、また総合的な経営判断から振子や車体傾斜を取り止めるケースも現れている。四国でも2000系気動車の次に予讃線の8000系電車が振子を採用したが、その後継となった8600系では、空気ばね車体傾斜に切り替えられた。線形の不利など制約に悩む路線を劇的に高速化した“振子”は今、大きな転機なのかもしれない。

青いグラデーションの壁が海や空を連想させる四国最南端の駅、宿毛を滑らか、かつ勢いよく発車した列車は、中村までは高架線とトンネルの、公団建設線らしい高規格の線路を突き進んでゆく。そして、発車とともに土佐くろしお鉄道の車掌が回ってきたが、ブルーのポロシャツという装いで、カジュアルな地元密着鉄道といった印象だ。

ゆったりした四万十川の流れを渡ると比較的大きな市街地が現れ、17分で宿毛線を走り終え9時22分に中村到着。宿毛からの乗客は十数人だったが、新たに20人ほどが加わり、適度に賑わい始めた。到着した1番線は、変哲のないコンクリート建築のリノベーションが話題になった駅舎に面している。改札口を廃止した出入口付近から木の温もりに包まれた空間がうかがえた。

黒潮きらめく太平洋を見渡す

中村からは一般的な地方路線の姿となる。しかし、列車は逆に、カーブの増えた線路を加速や減速を繰り返しながら果敢に走り、振子車両の実力を遺憾なく発揮する。曲線に差し掛かると足元が中心線の外に振られる様子が、先頭デッキからの展望で手に取るようにわかる。途中で一度、二度と、黒潮がきらめく太平洋を見渡す。まばたきするようにトンネルが多く、スピード感の中で味わう海原の光景は、まさに土佐くろしお鉄道のハイライトだ。

一方、切り立った海岸の険しい地形は、短いトンネル一つで車窓風景を山中に変える。やがて奥まった山並みにループ線でアタックし、一回転した山腹の川奥信号場で予土線と合流、さらにトンネル内を上り続ける。すると意外にものどかな田園地帯に抜け、四万十川が穏やかに流れている。四万十川は中村から高知・愛媛県境の江川崎まで北上した後、予土線と絡みながらここに姿を現す。

窪川からは土讃線。同線の全通は戦後1951年(昭26)で、さらにそれを延伸した中村線は1963年(昭38)となる。窪川は予土線を合わせて事実上3線の接点だが、町も駅も小さく、なんとも中途半端な終点と思う。だが、開通の歴史を紐解くと、険しい地形がそうさせたことに思い至る。

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