若い貧困者に本当に必要なケアとは何なのか 生活保護受給者には「リハビリ医療」が有効だ

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日本語の語彙が異様にシンプルだとか、ハイティーンでも四則演算ができないだとか、はしを使うことができずにフォークをグーの手で握って食事をするといったケースは、そもそもそうした教育の機会を逸してきた過去を考えれば納得ができる(冗談みたいだが取材をしているとこんな子はレアケースではない)。

そして彼ら彼女らには、こんな共通点もあった。会話の対象との目線取りやジェスチャーなどの挙動が極度に不自然だったり、情緒を制御するのが苦手で、会話に極端な亢進(早口、エキサイト)や逆の緘黙(黙り込み)がある。思いどおりにコミュニケーションが取れないとパニックや癇癪を起こしてしまったり、言葉ではなく安易で衝動的な暴力を意思表示に使ってしまう。はたまた異様に手先が不器用だったり、よく転び、よく物に体をぶつけたり。

対人間のトラブルの仲裁を頼まれて双方の話を聞いてみたら、お互いがまったく相手の立場に立って物を考えることができないだけで、実はそもそもトラブルの種がなかったのに、刺す刺さないの話にまでエスカレートしているなんてこともあった。

そんな彼らのことを知人の特別支援学校教員に話すと「まるで発達障害的なパーソナリティだね」と指摘されたことがあり、当時は大きくうなずいたものだ。あまりにそんなケースが多いので、育てるのが困難な発達障害的な子どもだったから虐待や育児放棄の被害者になったのか、はたまた虐待を受けた結果の発達障害なのか、などということを思い悩んでみたりもしたが、ひとつはっきりと言えるのは、彼ら彼女らはいわゆる「一般社会」にはなじみづらい存在で、社会的排除の対象になりやすく、間違いなくその後の貧困予備軍だったということだ。

貧困者に適切なケアとは何だろうか

それでは、こうした環境を持ち、最終的に貧困に陥ってしまった人々に、適切なケアとは何だろうか? ここであらためて、また僕自身の経験に戻る。

僕自身が軽度とはいえ高次脳機能障害の当事者になった原因は、右脳に脳梗塞を発症したこと。それによって身体面では左手指の麻痺と呂律障害、高次脳機能面では注意欠陥や感情の抑制困難といったトラブルが起きた。後者の高次脳面での当事者感覚は、発達障害などにも符合する部分が多く、原因はどうあれ脳にトラブルが起きている状態での当事者感覚には共通性があるという推論に至った。

ちなみによく知られているように、脳神経細胞は一度虚血(局所の貧血)によって壊死してしまうと「不可逆」、つまり再生することがない細胞だが、その障害が一生残り続けるというわけでもない。

人間の脳神経細胞とは驚くべきポテンシャルを秘めていて、脳にダメージを負った後、壊死した脳神経細胞が担当していた機能を、そのほかの細胞が補完していく。壊死した細胞の周囲の生き残った細胞や、別の機能を担当していた細胞が、さらには特に何も担当していなかった細胞が、失われた機能を再度働かせるべく、新たに神経のネットワークを構築し直して、機能を取り戻していくのだ。

次ページつまり脳神経細胞は不可逆だが……
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