ISを倒しても中東に平和が訪れる日は遠い どこまでも複雑なシリア情勢にプーチンの影

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8月16日、ロシア軍の爆撃機がイラン軍基地を飛び立ち、シリア国内の過激派の拠点を空爆した。写真は軍事国際イベントで演習中の爆撃機Tu-22M3。ロシア南部アストラハン郊外で7日撮影(ロイター/Maxim Shemetov)

ロシアは今週、長距離爆撃機をイラク領空経由でイランに移送してシリア国内の標的を攻撃可能にして、米国の分析家たちの度肝を抜いた。イランの統治者が外国勢力による軍事基地の利用を認めたのは少なくとも1979年以来初めてであり、ロシアとイランの関係強化を如実に示した。

一部報告が示唆するところでは、アサド政権とその同盟国は攻撃の多くで化学兵器を使用したとされる。国連によるとアレッポではここ数週間の戦いで数百人が殺害され、すでに壊滅的な人道的状況をさらに悪化させた。

多くの点で、比較的小さな町のマンビジ解放は、長期化している大規模な戦いからすれば小さな出来事だが、米国にとっては大きな達成だった。少なくとも紙面では、勝ったのは「穏健なシリアの反政府勢力」であり、米国が長年強く望んでいた形だった。こうした反対勢力形成に失敗してきた無駄な年月を考えると、今回の勝利は小さな出来事ではないのだ。

現実は常に複雑なものだ。一説によると、マンビジ解放の主力となったシリア民主軍(SDF)の最大60%はクルド人だ。スンニ派やアッシリア人も含まれているが、西洋が本当に見たい種類の汎シリア勢力ではないのだ。批評家によると、SDFはクルド人民防衛隊(YPD)を主体としており、その成功はクルド人の分離主義を好まない近隣のトルコと、イラクに疑いの目で見られるのだ。

ロシアはてこ入れ、米国は距離

対立の大きな構図を変えるに足る穏健な現地の勢力を、米国が育てられるかどうかは、いまだに不明だ。最終的に平和が訪れるかどうかは、国内の各勢力と、その国外からの支持者の両方を巻き込んで、どのような取り決めがなされるか次第だ。

より広い範囲の地政学が明確になっているようだ。ロシアはシーア派が取り仕切るテヘランーダマスカス枢軸に与した。しかし、米国は同時に、サウジアラビアやトルコを中心とするスン二派の主要な同盟諸国から距離を置きつつある。

これはオバマ米大統領の落ち度とは限らない。歴史は彼に、悪夢のような状況を手渡したのだ。ジョージ・W.ブッシュ政権の剛健で干渉主義な手法は効果的ではなく、巨額な資金を要した。オバマ大統領にも、イランとの戦争を回避するなど成功した部分はある。最も重要なのは、米国が中東で現在行っている軍事活動は、当時よりも持続可能である点だ。

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