普通の女子高生が東大生に「知力」で勝るワケ 東大卒NHKプロデューサー、村松秀氏に聞く

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また「伝わる」ためには伝えるべきメッセージを十分に考え抜く必要もあります。そのために、番組のテーマについて専門家と対等に話せるくらい、徹底的にリサーチし、取材し、学び、テーマを掘り下げます。

たとえば、今から20年ぐらい前、環境中の合成化学物質がまるでホルモンのように働き、野生生物や人の生殖機能等をかく乱しているのではないか、という問題があることを知り、ドキュメンタリーで取り上げようと考えました。ところが当時の日本にはこの問題の専門家は10数人しかいないうえに、問題となっている合成化学物質のことを皆がばらばらな用語で呼んでいました。そこで専門家たちと議論しながら「環境ホルモン」という科学的な用語を生み出しました。テーマへの深い理解に基づいた平易な用語があるから市民にも伝わりやすくなり、以降、国内外で環境ホルモンの問題が極めて重要視されるようになりました。

とことん考える「グルグル思考」

『東大2017』 (東京大学出版会)。(hontoでの購入はこちら、Amazonでの購入はこちら

 

――『女子高生アイドルは、なぜ東大生に知力で勝てたのか?』を執筆しました。今の高校生が「女子高生アイドルに負けない東大生」になるにはどうすればいいでしょうか。

知力とは、思考力や発想力、実践力を束ねた生き抜く力のことですね。それは、簡単に答えが見つからないような問題を、関係ないことまでも含めて無駄にでもとことん考える「グルグル思考」によって鍛えられるものと思っています。「すイエんサー」でリポーターを務める女子高生のモデル・アイドルたちは、「バースデーケーキのロウソクの火を一息で消したい!」など日常の中の素朴な疑問に台本なし、打合せもなしのガチンコで向き合い、「グルグル思考」を徹底的に鍛えてきました。学校教育では決して味わえない、頭が沸騰するような知的なグルグル感は、ばかばかしいようでも、無駄なようでも、とにかく必死に考えることを楽しいと感じられる原動力になります。

彼女たち「すイエんサーガールズ」の知力がどれだけ鍛えられたか知ろうと、東大生とのガチンコ知力対決を企画しました。「紙で丈夫な橋を作れ」などのお題でこれまで4回知力対決をしましたが、なんとすイエんサーガールズが3勝1敗で勝ち越しているのです。すごいことです。

しかし自分の高校生・大学生時代を思い返すと、東大生が負けるのも無理はないと思えるところもあります。私自身、電気電子系の学科に進学してショックを受けるまで「学びとは教えてもらえるもの、与えられるもの」と思っていました。東大に合格したのも学校で与えられたものにうまく対応する器用さをたまたま持っていたからでしょう。学校教育ではどうしても決められた単元を消化し、覚えるべき単元を学ぶことに注力せざるをえず、グルグル思考を身に付ける時間がなかなかありません。

東大生の良さのひとつはAならばBとスマートに論理的に考えられる力ですが、その思考法は直線的です。しかし、世の中の多くの問題は直線的な思考で解けるような単純なものではありません。わからない問題と対峙したとき必ず役立つのがグルグル思考です。私も番組を制作する際、関係なさそうな出来事の間に共通の意味がないかなどさまざまな斬新な切り口で社会をとらえようとトライし続けて、伝える価値のあるテーマを探します。グルグル思考を日常的に鍛えた高校生たちが成長すれば、国内外に山積する課題を解決してくれるのではないでしょうか。グルグル思考は世界を変えるんです。

横井 一隆 東京大学新聞社編集者
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