複雑すぎるカリスマ、アマゾンCEO大解剖 カリスマ風を吹かせる時間すらムダ?

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もはや1994年の創設当初のオンライン書店からは考えられないような、複雑な業態だ。ワンクリックで支払いができるとか、商品を買ったユーザーの評価を掲載するとか、第三者の商店がアマゾン上で店を開くといった前代未聞のことも、ここで起こった。すべて、ベゾスのビジョンと超先端のテクノロジーの力を組み合わせた結果だ。

新しい実験は、ピザ2つ分のチームで

そして、イノベーションのためにはリスクをいとわない。彼は、社員がこれまで経験のない分野でも、ゲリラ的に道を見いだしていくことを歓迎しているという。

新しい実験に乗り出す時は、「ピザ2つ分」サイズのチームを作り、少人数で集中させる。「ピザ2つ分」というのは、アメリカ人の食欲を持ってすれば5、6人というところだろう。硬直した組織構造を離れて、脱中心的な方法でイノベーションは起こるという考えだ。アマゾンは現在、スマートフォンを準備しているといううわさもある。

ベゾスは、1964年にティーンエージャーの両親の元に生まれ、母がその後再婚した継父のベゾス名を受け継いだ。小さい頃から多才で、3歳の頃には、おりのような乳児用寝台に飽きて、自分で解体し平らなベッドに改造してしまったという。若い頃、毎夏を過ごした祖父の農場では、工夫を凝らして何でも自分でやることを覚えた。発明心と粘り強さは、このときの産物だ。

プリンストン大学で物理学とコンピュータ科学を学び、卒業後はスタートアップや金融関連企業に務めた。ニューヨークのヘッジファンドで副社長にまで上り詰めていたが、インターネットが発展していくのに魅了されて辞職。妻と2人で車で西海岸へ向かい、その間にアマゾンのビジネスプランを考えたというのは、有名な話だ。ちなみに妻は職場の同僚だが、ベゾスは「発展途上国で投獄されても、ちゃんと救い出してくれるような、臨機の才のある女性」を求めていたという。

その後のアマゾンの発展はご存知のとおり。ドットコムバブルの崩壊も景気後退もくぐり抜け、今や人々の生活のなくてはならない伴侶になっている。

インターネットの商人であって超レベルのテクノロジーおたく。そしてテクノロジーの未来を見通すビジョナリーでありながら、細部にこだわる経営者。ジェフ・ベゾスは、これまでのパターンにあてはまらない複雑なカリスマなのである。

瀧口 範子 ジャーナリスト

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たきぐち のりこ / Noriko Takiguchi

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』『行動主義:レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家:伊東豊雄・観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち:認知科学からのアプローチ』(テリー・ウィノグラード編著)、『独裁体制から民主主義へ:権力に対抗するための教科書』(ジーン・シャープ著)などがある。

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