日本人観光客が激減していた8月のフランス 非常事態宣言下でも変わらない日常に触れた

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ノートルダム大聖堂の入り口には長蛇の列

観光客が減ったとはいえ、ノートルダム大聖堂の入り口には長蛇の列ができていて、入場をあきらめた。パリからTGV(フランスの高速鉄道)に乗って出かけた南東部のリヨンも、古い街並みが残る旧市街は、イギリスやスペインからの観光客でにぎわっていた。

8月のフランスは午後10時近くまで明るい。夜、広場に設けられたレストランのテラス席では、いろんな国籍の人が、リヨン名物のクネル(魚のすり身料理)などの食事を楽しんでいた。ごく当たり前のバカンス風景である。普通にバカンスを楽しめるということは、実は貴重なのだと感じる。

パリでもリヨンでも、あきらかに少ないのは日本人観光客だった。通常の夏は、かなり頻繁に旅行客の日本語が聞こえるのだが、今回はあまり聞くことがなかった。滞在中、テレビのニュース番組では、モンサンミッシェルから日本人観光客がいなくなった、と報道していた。モンサンミッシェルは、フランス北西部の島にある修道院で、世界遺産に登録されている。遠くから眺めると、海に浮かんでいるように見え美しい。パリからは、日帰りで訪れることもできる。

テロリストに屈しないという強い意思

モンサンミッシェルの島の入り口から修道院へ続く道には、みやげ物屋やレストランが、たくさん並んでいる。なかには、日本語で書かれた看板を掲げている店もある。通常なら日本人が多く訪れる観光地だ。ところが、この夏は、日本人観光客が激減しているという。みやげ物屋の店主らしき男性が嘆いていた。「日本人は親切で、良いお客さんなのに」。

パリでもリヨンでも、ホテルやレストラン、商店は普通に営業していた。ある美術館では、私たち家族4人にチケットを渡すとき、窓口にいた年配の男性はいたずらっぽい目をして、夫と子どもたち1人ずつに、もったいぶってチケットを渡した。最後に私の番になったが、「チケットはないよ」という身ぶりをする。私が困った顔をすると、チケットを探すふりをしてから取り出し、ニヤリと笑いながら渡す。

フランス人はこんな冗談が好きだが、非常事態宣言下でも、それは変わらない。普段どおりの「日常」を送る男性に感心した。毎日を明るく過ごすということも、テロリストに屈さないという意思表示なのかもしれない。

国末 則子 フリーライター

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くにすえ のりこ / Noriko Kunisue

フリーライター。東洋経済新報社、朝日新聞記者を経てフリーライターになる。2001~2004年、2007~2010年の2度にわたってパリに滞在し、2人の子どもを現地校に通わせた。著書に『パリの朝食はいつもカフェオレとバゲット』(プレジデント社)。
 

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