日本株「みせかけの好調」の後に来るもの 17年ぶりの「異様な高値」が示す真実

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先行きに対する不透明感が払拭されたというポジティブな解釈をしたいところだが、実際は「日銀ETF買入幅の拡大によって下値不安はほぼ無くなったが、上値も重く狭いレンジでの推移となりそう」といった投資家心理が近いだろう。日経VIは下落局面だけ上昇するわけではなく、2013年前半のように強い上昇局面でも上昇する傾向がある。

オプションのプット、コール両方を用いて算出されているからだ。足元、下値不安が低下していることからプットの売買が減少している一方、上値の重さも嫌気されてコールの売買も減少。オプション市場の売買そのものが沈静化している。日経VIの低下は、市場の落ち着きを好感して中長期的な投資資金が流入する可能性が高まるのだが、狭いレンジ推移の相場展開が続く可能性を示しているのであれば、資金流入は期待できない。

「ドル建て日経平均の好調ぶり」は何を意味するか

そして、最後のドル建て日経平均の高値更新についてである。これは、日経平均をドル円のレートで割ったものだ。各ベンダーや証券会社によってドル円のレートは若干異なるので、明確なドル円のプライスはないようだが、12日の終値1万6919.92円を12日15時時点のドル円レート102.14円で割ると165.65ドルとなる(QUICKベース)。年初来高値を更新しており、昨年の高値水準である6月24日の169.13ドルに迫っている。

この日の日経平均は2万0952.71円とアベノミクス相場での最高値をつけており、ドル円レートを計算すると123.88円。12日時点よりも20円超円安ドル高な水準だ。円高推移にも関わらずドル建て日経平均がこの水準に位置していることは、企業が円高への耐性を高めたこともあるが、円高で本来下落する局面でも日銀がETF買入で日経平均を下支えしていることが大きく影響している。

こうした流れを考慮すると、今後、企業の業績などを見なくても、日経平均や、機械的に日銀が買入を実施する銘柄を拾っておけば、上値は重いながらも多少のパフォーマンスは得られそうだ。

だが企業の業績を無視した、歪んだ市場を投資家はどう思うだろうか?「官製相場だからトレンドに逆らうな」という判断を下すトレンドフォロー型の資金は流入しそうだが、企業分析を生業とし個別銘柄に投資をする機関投資家の資金は入りにくくなるだろう。指数構成比率の高い銘柄に資金が集中する一方、指数構成比率の低い中小型やマザーズ銘柄などは蚊帳の外となりそうな状況だ。

田代 昌之 マーケットアナリスト

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たしろ まさゆき / Masayuki Tashiro

北海道出身。中央大学文学部史学科日本史学科卒業。新光証券(現みずほ証券)、シティバンクなどを経てフィスコに入社。先物・オプション、現物株、全体相場や指数の動向を分析し、クイック、ブルームバーグなど各ベンダーへの情報提供のほか、YAHOOファイナンスなどへのコメント提供を経験。経済誌への寄稿も多数。好きな言葉は「政策と需給」。ボラティリティに関する論文でIFTA国際検定テクニカルアナリスト3次資格(MFTA)を取得。2018年にコンプライアンス部長に就任。フィスコグループで仮想通貨事業を手掛ける株式会社フィスコデジタルアセットグループの取締役も務める。

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