人生において最も大事な言葉は「ノー」である 介護の技法書から現代を生き抜く哲学を学ぶ

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「ノー」と言える絆のうえで、選択の「イエス」を言えるようにならなければいけない(写真 :aijiro / PIXTA)

この本には本当に驚かされた。介護の技法書だと思って読み始めたら、これからの時代を生き抜く哲学の本だったのである。ユマニチュードとは、認知症高齢者ら介護される側の人間性を取り戻すケア技法であり、それを支える哲学のことである。

本書『「ユマニチュード」という革命』のオビには「ケアを受ける人に愛情が伝わるから、ケアをする人も愛と誇りを受け取れる」とある。だから、テクニカル一点張りではないことは、読む前にもわかった。でも面構えは、あくまで介護の技法書だったのだ。

現代の「人間疎外」の処方箋

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しかし読後、私は読む前に想像した場所とはまったく違う場所にいた。本書は、現代の不気味な通奏低音となっている「人間疎外」の処方箋になるかもしれない、と思わず心が昂ぶったのである。

私は、勤務先で介護制度を活用している身だが、私の他にも身の回りに介護と奮闘中の人を知っている。高齢化社会が進展する中、意識的に目を伏せようとしない限り、多くの人がこれに近い環境に置かれていることだろう。

人口構造が変わり、従来の働き方が馴染まなくなっているのは、誰の目にも明らかである。しかし、自分なりの働き方を選ぶことは容易ではない。そこに従来のモラルが連綿と引き継がれているからである。私は、そのモラルに代わるものを自分の中に打ち立てたいと、ひたすら考えてきた。しかしまさか、今回の読書でそこにたどり着けるとは思ってもみなかった。驚いたことに、本書は、最高の形で私を裏切ってくれたのである。

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