いい縁に恵まれる人は「瞬時の判断力」が違う 数値やデータだけで「人生の選択」は出来ない

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縁で選ぶメリットのひとつは、損得勘定で選ぶときのような「挫折感」が生じにくいことです。選ぶ基準が感覚的で、個人的なものになればなるほど、選んだ後の後悔や、挫折感は少なくなります。

また、「損得勘定」による選択の弱点は、「賞味期限が短い」ことです。「あの八百屋さんよりこっちのスーパーのほうが100円安い」のであれば、確かにスーパーで買い物をするほうが得です。しかし「得」だからといってみんながスーパーで買い物をしたら、八百屋さんは潰れてしまうかもしれません。そうすると10年、20年という長い期間で見たときには、その地域の「食」全体が貧しくなってしまう、ということだってありうる。

就職活動や進路も同じです。いま給料が高い会社が、10年後も良い待遇を維持できるかどうかは誰にもわかりません。ブラック企業に近いような会社であっても、そこで働いた経験が、その人にとってどこでプラスになるか、ということまでは誰にもわからない。

そういう長期的な視野に立つ必要があるときには、目先の損得勘定ではない、感覚的な判断が必要です。「なんとなくいい感じ」「なんとなく合ってそう」という感覚のほうが、目先の損得よりも、長い目でみると正確でバランスの取れた判断となることは少なくありません。

類似性こそが「縁」

「縁」みたいなあやふやな感覚で選ぶなんて不安だ、という人もいると思います。あるいは「縁」と言われても、何が「縁」なのか、自分にはまったく見当もつかない、という人もいるでしょう。

縁とは何か。これを論理的に語ることは難しいのですが、少なくとも心理学的には、僕らは「自分の知る何かに似ているもの」に対して、縁を感じるようです。

少し、僕の経験をお話しましょう。まだ国試(医師国家試験)を受けたばかりの頃、後に勤めることになる病院を初めて訪れた時のことです。それほど新しい病院ではなく、建物もずいぶん古くなっていました。そこでの医局長さん達との面接を終えて帰る時、ふと、ロビーの前にある階段に小さなヒビが入っているのを見つけました。そのとき、そのひび割れに対して、なんとなく「懐かしい」と感じたのを、僕はよく覚えています。初めて来た場所なのに、まるで何年も前からそこを歩いているような感覚があったのです。

別に「壁のひび割れ」そのものに意味がある、というわけではありません。でも、壁のひび割れを見たときに、僕の心の中の何かが反応したということは、その後、僕がその病院に勤めることになったことと、まったく無関係とも思えないんです。

それはたぶん、僕がそれまでの人生の中で過ごしてきた場所や人間関係と、その病院の建物や立地、さらにはそこで働く人たちの間に、何らかの類似性や、共通性があったからだと思います。

「似ている」「同じだ」という感覚。これは「縁」という複雑な概念の、少なくとも一端を説明しているように思います。

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