患者の多くは「無駄な手術」を受けていた! 一部の症状では手術のメリットがないことも

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2009年、権威のある医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に、一般的な背中の手術である脊椎形成術について、プラセボと比較した臨床試験の結果が発表された。それによると、手術にはメリットがないことがわかった。手術をしたグループもしていないグループも痛みが軽減した程度に違いがなかったのだ。しかし、脊椎形成術も、脊椎を補強するために医療用セメントを注入する椎体形成術も、実施され続けている。

脊椎形成術の論文を発表したメイヨークリニックのデービッド・カルメス医師は、医師がそれらの手術をし続けるのは保険金が支払われることと、手術を受けて快方に向かった患者の記憶があるからだと指摘する。

「患者だけでなく医師にもプラセボ効果がある」と、カルメスは言う。「術後が良好な患者は記憶に刻まれ、そうでなかった患者は忘れられる。医師は『これは効果がある』と結論づける記憶だけを残してしまうのだ」

半月板損傷の手術の必要性は微妙

ランダム化臨床試験が実施され、最近議論を呼んでいるのが半月板損傷の手術だ。半月板は薄い軟骨で、膝の衝撃を吸収する役割を持つ。半月板損傷は中年者や高齢者に多くみられ、加齢に伴う変性の結果生じ、変形性関節症を伴うことが多い。痛みがあり、膝が腫れる。

毎年、中年層と高齢層の米国人約40万人が、半月板の損傷部位を取り除くか修復する手術を受けている。そして、興味深いのが、整形外科医はその手術の有効性に疑問を持っていることだ。医師たちは膝の痛みと半月板損傷に明確な関係性がないことを認識しているのだ。中年者の膝のMRI検査を行うと、半月板が損傷していても膝の痛みがない人は珍しくない。膝の痛みを訴える人は変形性関節症を併発していることが多く、それが痛みの真の原因である可能性がある。

さらに、手術をしても誰もがよくなるわけではないと、ハーバード・メディカルスクールのジェフリー・カッツ医師は言う。「手術が確実な治療法とは考えられていない」と、カッツは指摘する。多くの医師は運動や理学療法、手術のうちどれが効果的かは不確かだという。

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